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2012_all   46 / 48

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く電気を「送る」「貯める」「つくる」技術はいずれも、持続可能な 社会の実現に大きく貢献するだろう。したがって、このような技 術を既に持ち、今後さらに開発・発展させようという方向性は、 事業として間違いなく有望である。しかし、サステナビリティに 関してもう一つ考えなければならないのは、それをどのように 実現するかである。いくら高度な技術があっても、原材料がな ければ製品を作ることはできないし、昨年のタイの洪水のよう にますます激化する気象災害への適応ができなければ、事業 の安定性は損なわれてしまう。こうした問題にどのように対応 し、事業自身を持続可能にするかということを具体的に示して 欲しい。本レポートによれば、現在はまだ2,3年の短期間での目 標しかないようであるので、今年発足したサステナプランワー キンググループ(P.18)では、ぜひ超長期の持続可能性を実現 するような目標とプランを策定し、今後それに従った活動が行 われることを期待したい。 そうした活動の中では、技術を通じて社会に貢献するだけで なく、自らが社会や自身の持続可能性を高めるための新しい取 り組みを進め、リードして欲しい。例えば、省エネを進めるだけ ではなく、エネルギー源を再生可能なものにシフトしたり、再生 可能エネルギーを創り出すこともできるはずだ。そして、例え ば超電導ケーブルに限っても2030年には世界の需要が1.6倍 になる見込み(P.13)ということは、原材料もそれにほぼ比例し て必要になるということである。今後枯渇する金属資源をどの ように入手するのか、あるいはプラスチックは石油由来から生 物由来のものへどうシフトするのか。こうした点についても具 体的な道筋を示し、実際の活動を始めることが必要だろう。 ところで2011年度、古河電工は生物多様性について事業と の関係性を分析・評価し、それに基づいて課題とアクションプラ ンを策定した(P.26)。私もこれに参加し、古河電工と生物多様 性のまさに多様な関係性を感じた。企業が生物多様性の保全 に取り組むのは、それが事業リスクに直結するからであるが、 それ以上に重要なのは、生物多様性とそれが支える生態系 サービスが企業活動に必須だからである。だからこそ事業が 生態系に与える負荷を最小化する必要があるのであり、負荷を 自然の許容範囲内に収めることが持続可能性の究極の条件な のだ。非常に重い課題だが、これについても今後さらに検討を 深め、古河電工が持続可能な企業のあり方を世の中に具体的 に示す存在となることを期待したい。 古河電工は、今回からCSR報告書とアニュアルレポートを統 合してサステナビリティレポートとして発行している。これは、 近年、特に欧州において投資家がいわゆるESG(環境・社会・ガ バナンス)などの非財務情報の開示を求めるようになってきた ことに呼応していると考えられる。こうしたレポートで重要なこ とは、明確な指標を採用することと、何をめざしているかを明示 することである。今のところ数値指標は環境分野に集中してい るので、今後、社会やマネジメントについてもわかりやすい指 標が増えると、理解や比較がしやすくなるだろう。一方、本レ ポートにおいては、古河電工が今後どのように事業を展開する かを柴田社長自身の言葉で紹介し(P.7-10)、そのような事業 展開を行うために具体的にどのような技術を持っているのかに ついて、第2世代高温超電導技術の特集(P.11-16)を組むなど して詳細に紹介しており、わかりやすくなっている点が評価で きる。 ところでこの“サステナビリティ”(持続可能性)だが、私たち がもっとシンプルな生活をしていた時代には、衣食住がもっと も重要な構成要素であった。しかし、最近ではこれにエネル ギーと情報も加わったように思う。古河電工の事業はまさにこ の二つを支えるものであり、今回取り上げられている、効率良 株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 足立 直樹 東京大学理学部、同大学院で生態学を学び、理学博士号取得。国立 環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事 した後、コンサルタントとして独立。「企業による生物多様性の保全」 と「CSR調達(サプライチェーン・マネジメント)」が専門。日本生態学 会 常任理事、環境経営学会 顧問、企業と生物多様性イニシアティブ (JBIB)事務局長などのほか、環境省の生物多様性企業活動ガイド ライン検討委員会などの委員を多数務める。 第三者意見 45 古河電工グループ サステナビリティレポート 2012