超高速100Gbps光デジタルコヒーレント伝送向け 小型ITLAのサンプル提供を開始
〜新材料によって更なる低消費電力・高出力可能な波長可変レーザチップも開発〜

2013年3月13日

当社は世界で本格的な導入が進んでいる毎秒100ギガビット(以下、100Gbps)の超高速光デジタルコヒーレント伝送装置のキーデバイスである、小型ITLA(Integrable Tunable Laser Assembly)を開発し、サンプル提供を開始しました。

また、更なる低消費電力化・高光出力化への要望に応えるため、小型ITLAの消費電力をさらに20%削減(従来比40%削減)可能であると同時に、光出力をほぼ2倍にできる波長可変レーザチップを開発しました。

小型ITLAは3月19日より米国・カリフォルニア州・アナハイムにて開催される世界最大の通信関連の国際会議・展示会「OFC/NFOEC2013」にて、サンプルの展示を行います。 また波長可変レーザチップは、3月19日より岐阜市で開催される,電子情報通信学会総合大会にて論文発表を行います。

小型ITLAの開発背景

近年、スマートフォンの普及によるワイヤレスバックボーンの拡大や、クラウドコンピューティング、動画配信、ソーシャルネットワークの普及などにより、通信トラフィックが急激に増加しています。このようなトラフィックの増加に対応するために、光の位相(波の状態)を用いることで、信号劣化に強く雑音の影響を受けにくい「光デジタルコヒーレント方式」による100Gbpsの大容量伝送システムの導入が急速に進んでいます。

当社はすでに、光デジタルコヒーレント方式(注1)の信号光および局発光用(注2)に優れた特性を発揮する高出力、狭線幅ITLAを製品化しています。

しかしながら、市場及び顧客から更なる大容量化を要望されており、小型、低消費電力ITLAの規格がOIF(注3)にて標準化されました。

小型ITLAの開発内容

今回開発した小型ITLAは、従来ITLAと同じ規格(通信プロトコル、光-電気特性)を維持したまま、小型化、低消費電力化を実現した光源です。

小型化(従来の1/2以下サイズ、45mmx20mm)を実現するために、当社がこれまでに培ってきた高精度光部品組み立て・固定技術を用いて、小型パッケージモジュールを開発しました。回路側も、レーザ駆動回路やデジタル回路の工夫により小型化を図りました。

また低消費電力化(従来比20%削減)を実現するために、狭線幅レーザチップの性能向上が寄与しました。

さらに、高出力・狭線幅の特性に加え、小型、低消費電力、且つ、OIFにて標準化されている規格に対応しており、光通信機器への導入が容易になります。

今後サンプル提供を行うとともに、量産も計画しています。

従来サイズITLA(上) 小型ITLA(下)

小型ITLAの主な仕様

項目 小型ITLA仕様 従来ITLA仕様
波長可変幅 1528〜1564nm(C帯)
1570〜1607nm(L帯)
1528〜1564nm(C帯)
1570〜1607nm(L帯)
光出力 13.5dBm 13.5dBm以上
線幅 <500kHz <500kHz
サイドモード抑圧比 >40dB >40dB
平均相対強度雑音 <-140dB/Hz <-140dB/Hz
波長安定性 <±2.5GHz <±2.5GHz
消費電力 5W 6.5W
サイズ 45×20×7.5mm 74×30.5×10.5mm

波長可変レーザチップの開発

従来のレーザでは発光層にGaInAsPを用いていますが、高い温度での光出力低下が顕著であるため、室温以下に冷却する必要があり、パッケージに内蔵された電子冷却素子(TEC)(注4)の消費電力が大きくなるという課題がありました。

これに対して、今回新たに開発した波長可変半導体レーザチップは,発光層にAlGaInAs(注5)と呼ばれる結晶を用いたことが特徴となっています。この材料を用いることで高温度においても光出力低下が抑制され、動作温度を従来型よりも15℃高くでき,室温以上での動作が可能となりました。これにより、TECの負荷を軽減でき、小型ITLAの更なる低消費電力化が実現されます。

当社の試算では,従来材料を用いた場合の5Wの消費電力を4Wまで低減でき、同時に、高温度での特性劣化により13.5dBmに制限されていた光出力を16dBm以上にできる見込みです。本レーザチップは、2014年初期より、小型ITLAへ搭載していく予定です。

半導体レーザ写真と断面模式図
左発光層と右光増幅層に新組成を適用

用語解説

(注1)光デジタルコヒーレント方式:伝送データから光の位相情報を、デジタル信号処理を用いて検出する伝送方式で、少ない帯域幅で多くの情報を伝送することが出来ます。

(注2)局発光:光デジタルコヒーレント方式伝送において、伝送データから位相の情報を取り出すために信号光と干渉させる目的で局部的に用いられる光です。狭い線幅特性が要求されます。

(注3)OIF:Optical Internetworking Forum
光ネットワーク機器と、その光部品に関する標準化を推進する業界団体です。

(注4)TEC:Thermoelectric Cooling Moduleの略。二つの熱電子材料の接合部に電流を流すことにより、発熱及び吸熱現象を引き起こします。本製品ではレーザチップの温度調整に用いています。

(注5)AlGaInAs:従来のGaInAsPに比べ、高温度にしても出力の低下が小さいレーザを実現できる材料です。酸化しやすAlを含むことから、複雑な工程を経て製造される集積型の光素子への適用は、一般的に困難と考えられています。