世界初 マイクロチップでの単一細胞全自動解析・回収装置を商品化
〜第5回 「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞 受賞〜

2013年9月18日

当社はアズワン株式会社、黒田俊一 名古屋大学教授、近藤昭彦 神戸大学教授及び藤井郁雄 大阪府立大学教授らの研究グループと産学共同で、世界初となるマイクロチップでの単一細胞全自動解析・回収装置を商品化し、第5回「ものづくり日本大賞」の製品・技術開発部門において、経済産業大臣賞(注1)を受賞致しました。

本装置は、iPS細胞・幹細胞による再生医療や革新的な新しい創薬スクリーニング等の早期実現に貢献できると期待され、世界的に最も権威のある英科学誌ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」に注目の論文(注2)としても掲載されました。

「ものづくり日本大賞」

単一細胞全自動解析・回収装置の直接世界市場規模が2015年には50億円と予想され、国内における幅広いライフサイエンスの基礎研究と創薬・臨床実用化に及ぼす間接的経済波及効果まで考慮すると、さらに大きな市場規模が推定されます。

当社は、2008年に生細胞へのソーティングダメージが最も少ないセルソーターの商品化にも成功しており、バイオデバイス事業のみならず、得意とするナノバイオ技術を活かし、今後、幅広いライフサイエンス事業を積極的に展開してまいります。

なお、現在この装置は、理化学機器販売の国内最大手であるアズワン株式会社より、国内販売されています。

受賞式の写真(中央が茂木 敏充 経済産業大臣)

開発の背景

単一細胞を解析・回収できる装置としては、セルソーター(注3)が良く使用されましたが、タイムラプス解析(注4)ができないほか、数万分の一の様なレアでデリケートな生細胞をダメージレスで回収できない問題が指摘されています。また、効率的にマイクロチップ上に単一細胞を解析・回収する試みも国内外に有りましたが、特にマイクロチップと回収用キャピラリ(注5)との間に、数マイクロメートルの位置決め精度が必要とされるため、単一細胞の回収精度が技術的なボトルネックとなっていました。また海外においても、細胞塊をある程度に回収できる商品はありますが、単一細胞を高感度且つ高効率で正確に取り扱う商品はありませんでした。

当社は、独自の画像処理技術とメカトロ技術を駆使し、世界で初めて大きさが数マイクロメートルの単一細胞でも、90%前後という極めて高い回収率の実現に成功しました。

当社が開発した単一細胞全自動解析・回収装置を用いると、例えばiPS細胞やES細胞等の樹立過程において、ライブラリーの中から最もよい形質を有する細胞を1細胞単位で精密に選び出し、正確な遺伝子情報解析で、効率よく短時間で育種することが可能になります。

その結果、再生医療に使用されるiPS細胞・幹細胞の信頼性向上とその安全性評価に大きな貢献が期待できます。また、良質のバイオ医薬品(抗体等)を大量分泌する細胞を、従来の細胞塊に比べ検出感度数千倍以上で検出することで、大幅な効率化が期待されます。さらに、数年以上を必要とされる創薬スクリーニングを、本装置とペプチドライブラリー表層提示酵母(注6)を用いることで、スクリーニング時間が数週間に短縮できる大きなメリットも有ります。このように、本装置は幅広い創薬スクリーニングに革新な技術として応用できることから、「万に三つ」と言われる創薬の成功率を引き上げることが期待されています。

さらに、臨床分野でも、タイムラプスによる単一細胞への薬物感受性解析評価と遺伝子解析が行えることで、特に抗がん剤投与の指針にも貢献できるとの臨床現場からの期待も高まっています。

製品の特長

単一細胞全自動解析・回収装置は、細胞の大きさに応じて、8万から33万以上のマイクロウェル(注7)を構成するマイクロチップ上に高集積度で単一細胞を極めて高感度で計測しながら、目的の単一細胞をダメージレスで培養プレートに回収できる世界初の装置です。

この装置は、透過光解析情報に加え、8000個以上の細胞を僅か6秒で3蛍光色による計測・解析が可能です。また、タイムラプス解析を行うための試薬置き換え機能も備えつけています。

マイクロチップは安価な樹脂成型の使い捨てタイプで、細胞のサイズに応じて直径が10マイクロメートルと30マイクロメートルの2種類があります。また、細胞の研究用途に合わせたマイクロチップへの表面処理を施すこともできます。


補足

(注 1)第5回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞に掲載されています。

(注 2)An automated system for high-throughput single cell-based breedingに掲載されています。

(注 3)セルソーター:細い流路に高速で流れる個々の細胞の特徴を計測し、その情報に基づいて目的の細胞を回収することができる装置です。

(注 4)タイムプラス解析:時間の経過に応じて、細胞を連続的に計測・解析することです。

(注 5)キャピラリ:ガラスで作られた十数マイクロメートル程度の細い管のことです。

(注 6)ペプチドライブラリー表層提示酵母:複数のアミノ酸をランダムで組み合わせして作られるペプチドライブラリーの中から、あるペプチドが酵母細胞の表面に付きシグナルが得られた場合、薬の候補となります。その「提示」機能を果たせる酵母細胞のことです。

(注 7)マイクロウェル:マイクロメートル程度の小さい直径を持つ集積度の高いウエル(くぼみ)のことです。

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