ナノテクの応用で病気の早期発見をサポート

メディカル

医療の現場は早期発見、早期治療を最善としている。病気の原因を早い段階で特定するために様々な検査を実施するが、検査精度の向上や検査の簡易化への取り組みは終わりがないのが実情である。

古河電気工業は、銅合金、電線の絶縁体としてのプラスチック、光ファイバのガラス素材など、長年にわたって蓄積してきた分子レベルの分析、制御に関する技術を土台として、2004年に研究開発本部内にバイオチームを発足。ナノテクバイオ製品への取り組みを本格的に開始した。そして、シリカ粒子内に蛍光を発する色素を高密度に閉じ込めた蛍光シリカナノ粒子「Quartz Dot®」(クオーツ・ドット)の開発に成功。検査薬への応用を目指して、さらなる独自技術の確立に取り組んできた。

イムノクロマト法の検査薬への応用

QUARTZ DOTの構造

Quartz Dotは、その表面に抗体等の生体分子と結合しやすい官能基を配置した構造で、その粒径はアプリケーションに応じて50~400nmの範囲で高い精度で作り分けることができる。この粒子をイムノクロマト法の検査薬に用いることで従来よりも高感度な診断が実現可能になった。

イムノクロマト法は従来から一般的に行われている簡易な診断手法であり、インフルエンザなどの診断でも広く使われている。キットの一端に唾液などの検体を滴下し、検体の中に含まれている抗体との結合で起こる色の変化で診断する。

  1. キットの一端に唾液などの検体を滴下
  2. 検体に含まれる被検物質とナノ粒子が抗原抗体反応で結合
  3. 被検物質が結合したナノ粒子が毛細管現象でメンブレンを移動
  4. メンブレンにライン状に固定された抗体と被検物質が結合したナノ粒子が第2の抗原抗体反応を生じる
  5. ライン上にナノ粒子が集積することでラインが発色
  6. このライン発色を目視確認することによって判定

病原菌の早期特定

従来法の多くが自然光下の着色を観測するのに対して、Quartz Dotは、特定波長の光の照射下で発する蛍光を観測して診断を行う。Quartz Dotは、極めて感度が高く、従来では検出できなかった量の抗体しか検体に含まれていなくても診断が可能である。例えばカンピロバクターの検出では、従来の着色タイプの検査薬が細菌10,000個からの検出が可能であるのに対して、Quartz Dotを用いた蛍光イムノクロマト検査薬では200個程度から安定的に検出できる。このため病気の早期発見、治療に大きく貢献することが期待されている。

Quartz Dotの表面につける抗体を変えることで、インフルエンザ、ノロウイルスなどさまざまな抗体を検出することが可能で、すでに協力機関と共同で検査薬の研究・開発が行われている。

事業化とさらなる発展に向けて

2015年10月から当社グループの株式会社古河電工アドバンストエンジニアリング(千葉県市原市、社長;廣野浩己、以下古河AE社)から販売が開始された。事業化にあたり、株式会社古河電工アドバンストエンジニアリングの渡辺秀樹氏は次のように語った。

「古河AEでは、医療機器を含む多種の分注機応用製品をOEM供給しておりライフサイエンス系製品の開発経験が豊富です。また蛍光観察を応用した機器類の開発経験もあり、本研究においては蛍光イムノクロマトスコープや定量リーダーの開発協力をしてまいりました。QuartzDot事業化についてもこれらの背景から新規事業として積極的に取り組み、製造プロセスの安定化等の課題、マーケティング等については電工生産技術部殿をはじめとする各部門の助言をいただきながら立ち上げをいたしました。現在は試薬として各社・研究機関のご評価をいただいているところですが、高感度であるというフィードバックにより将来の成長を楽しみにしています。今後は特徴ある蛍光色素を開発/使用してラインナップの拡充をし、高感度で使いやすいといった特徴を訴求してまいります。」

また、研究開発にあたった先端技術研究所 三好一富氏は、今後加速する当社の新事業開拓に向けての抱負を次のように語った。

「当社は、素材メーカとして超電導など、ナノ領域の技術開発において高いポテンシャルがあります。今回のQuartz Dotの開発は、いかにシリカ粒子の粒径を制御し、蛍光色素を安定的に閉じ込めるか、またその表面処理をいかに適切に行うかが重要で、この解決のためにさらに多くの知見を蓄積しました。ナノ・スケールの制御技術は、当社の目指す様々な新事業の根幹に関わる重要な要素です。今後もさらなる新しい技術開発を目指して取り組んでまいります。」