2023.3.09

5G

5G通信機器用レドームに適した低誘電微細発泡樹脂材料

概要

  • 第5世代移動通信システム(5G)や、今後導入が予定されているBeyond 5G/6Gでは、高周波の電波を扱う通信機器が、大量に導入されます。
  • これに伴い、通信機器の設置場所の確保や、通信に伴う消費電力の増加、アンテナ基板の発熱量の増加が問題となります。
  • 当社独自の超微細発泡樹脂(MCP)を利用することで、通信機器の設置間隔の延長、軽量化による設置場所の自由度向上、通信に伴う消費電力の低減、機器の熱設計の自由度向上が期待できます。

当社独自の超微細発泡樹脂(MCP)により、ミリ波レベルの高周波の電波に対しても、低い比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を有し、優れた電波透過特性を示す材料が得られます。このため、高速通信の実現に必要となる、5Gの基地局やアンテナ、車載ミリ波レーダーといった、高周波アンテナのレドームへの適用が期待できます。

またこの材料は、赤外線をよく反射する特徴を有しており、外部からの輻射熱による入熱を、抑えることができます。

高周波機器用材料をお探しのお客様は、ぜひ下記に、ご気軽にお問い合わせください。

5G通信の問題点と課題 レドーム用材料への要求

既に商用化された5G通信には、高速・大容量、超高信頼・低遅延、多数同時接続といった3つの特徴があります。この実現のため、通信周波数として、3.7GHz帯、4.5GHz帯に加え、ミリ波帯となる28GHz帯が導入されました。

今後、導入が予定されているBeyond 5G/6Gでは、さらに高周波帯が採用される見込みです。高周波の電波により通信する場合、高速通信が可能になる一方で、通信機器1基当たりの消費電力は、従来に比べて大きくなります。また、電波がレドームを透過する際や空気中を伝搬する際に減衰しやすく、例えば28GHz帯の5G電波が届く距離は約100m程度で、通信エリアの拡大には、基地局をこの間隔で設置する必要があります。また、直進性が高く、遮蔽物によって電波が届かない領域が多くなるため、中継機などの補助的な設備が必要になります。

このように、通信機器の高性能化と機器数の増加が進むと、通信に伴う消費電力が著しく増加することが予想されます。この問題に対し、アンテナやセンサといった通信機器には、より効率的に電波を伝えることが求められ、その筐体となるレドームには、より低誘電で電波透過性に優れた材料が適しています。

また5G通信において、多数の機器を短い間隔で設置することになりますが、設置場所を確保することが難しいという問題もあります。この原因の一つとして、機器が重く、支えられる土台を確保できないことが挙げられます。このため、通信機器のレドームには、軽量な材料が適しています。

さらに5G通信機器は、従来に比べアンテナ基板の発熱量が大きく、それによる通信速度の低下が問題となります。特に屋外に設置される場合、太陽光が当たると、輻射熱により機器内の温度が上昇するため、より熱設計が難しくなります。このため、通信機器のレドームには、赤外線を反射し、輻射熱による温度上昇を抑制する材料が適しています。

高誘電率、低赤外線反射な従来のアンテナレドームと、低誘電率、高赤外線反射率、軽量な理想的なアンテナレドームの比較

超微細発泡樹脂(MCP)による低誘電化(電波透過性の向上)と軽量化

1.樹脂の発泡による比誘電率Dkと誘電正接Dfの低減と軽量化

電波透過性の改善には、材料界面での反射や、材料透過時の誘電損失による減衰を抑えることが必要で、比誘電率Dkと誘電正接Dfの低い材料が求められます。最も低誘電なのは真空で、空気もほぼ同等の誘電特性が得られるため、材料を空気に近づけることで、電波透過性は改善することになります。

この観点から、もともと比較的に低誘電である、樹脂材料の内部を発泡させて気泡を分散させることで、材料の比誘電率Dk、誘電正接Dfが低下し、電波透過性の更なる向上が望めます 図1。また発泡させることで、材料の密度が低下し、軽量な材料が得られます。

図1 樹脂材料の発泡による低誘電化

母相中に気泡を分散させ、
材料の比誘電率Dk、誘電正接Dfが低下

2.古河独自技術 超微細発泡樹脂(MCP)の優位点

樹脂材料を発泡させることで、材料の比誘電率Dk、誘電正接Dfを低減でき、優れた電波透過性が得られます。しかし、電波が高周波になるにつれ、波長が短くなり、発泡材の気泡サイズ(サブミリサイズ)に近づくことで、母相と気泡の界面の影響を受けやすくなり、電波透過性が損なわれます。

この問題に対し、当社独自の超微細発泡樹脂(MCP)を導入することで、ミクロンサイズの気泡を形成可能で、高周波の電波に対しても、良好な電波透過性が得られます 図2。

気泡サイズが電波透過性に及ぼす影響

図2気泡サイズが電波透過性に及ぼす影響の模式図

3.超微細発泡樹脂製品「MCPET」の電波透過特性について

図3、4図は、当社の超微細発泡樹脂製品である、MCPETの電波透過特性を示したものです。発泡していないPET材料に対し、大幅に電波透過特性が向上しています。また、22~100GHzの広い高周波帯で、ほぼ一定の電波透過特性を示しています。

MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較(22~33GHz)

図3 MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較
(22~33GHz)

MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較(70~100GHz)

図4 MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較
(70~100GHz)

図5には、平板サンプルに対して電波の入射角を変えた場合の透過特性を示します。MCPETは、角度依存性がほとんど見られず、浅い角度で電波が入射しても、高い透過率を維持する材料です。

MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較(70~100GHz)

図5電波透過の入射角依存性(22~33GHz)

(注) 数値は当社の試験例になります

(注) 自由空間法(Sパラメータ法)で測定しました

超微細発泡樹脂(MCP)による赤外線反射(輻射熱による温度上昇の抑制)

1.超微細発泡樹脂(MCP)の光反射特性について

発泡樹脂材料において、樹脂と気泡の界面で光が反射します。当社独自の超微細発泡樹脂(MCP)においては、気泡径を微細にすることで、材料表面近傍で光の反射が繰り返され、材料内への光の透過を抑制することで、優れた光反射性を示します。図6

図6 微細発泡材料の光反射の模式図

2.超微細発泡樹脂製品「MCPET」の赤外線反射特性について

図7は、当社の超微細発泡樹脂製品である、MCPETの光反射特性を示したものです。本製品は照明用反射板として長年ご採用頂いており、可視光領域(400~800nm程度)で高い反射率を有していますが、赤外線領域(>800nm)においても、高い反射率を示しています。

図7 MCPETの光反射特性

(注) 反射率は酸化アルミ板との相対値です

3.超微細発泡樹脂製品「MCPET」による輻射熱での温度上昇の抑制

当社の超微細発泡樹脂製品であるMCPETは、赤外線領域でも高い反射率を示しており、それに伴う輻射熱の影響も受けづらいため、遮熱板としての効果が期待できます。図8は、ハロゲンランプを当てた時の温度変化を確認した結果で、MCPETを介することで、温度上昇が抑えられていることが見て取れます。

  • 微細発泡樹脂における比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)の関係

    図8 各素材による輻射熱での温度上昇比較

ご提案 5G通信機器用レドームへの超微細発泡樹脂(MCP)の適用

以上より、古河独自の超微細発泡樹脂(MCP)は、ミリ波帯の高周波領域においても良好な電波透過特性を有し、軽量で、赤外線に対し高い反射率を示します。この材料を5G通信機器のレドームに用いることで、通信機器の設置間隔や設置場所の自由度向上、消費電力の低減、熱設計の自由度向上が期待できます。

古河電工ではお客様の要望に合わせて、既存のラインナップ以外の異種樹脂の発泡にトライする事が可能です。比誘電率Dk・誘電正接Df以外にも難燃性や耐熱性、厚みや密度など様々なご希望をお聞かせいただければこれまでに培ってきた組成開発力(ブレンド)と発泡技術によって新たな発泡素材を提案します。

微細発泡樹脂における比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)の関係

図9 各プラスチック材料における誘電正接(Df)と比誘電率(DK)の関係

古河電工ではその発泡技術の一つである微細発泡技術を比誘電率(Dk)・誘電正接(Df)が低い低誘電樹脂に適用する事で低誘電性のさらなる向上と軽量化を達成しました。

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