2023.3.09

5G

低誘電微細発泡樹脂材料によりアンテナ・センサと照明の融合を実現した世界

概要

  • 高速通信、IoTの時代には、アンテナ機器やセンサが大量に導入されます。
  • 都市空間や生活空間に機器が溢れ、景観や意匠性が損なわれます。
  • 超微細発泡樹脂(MCP)の電波透過性と光反射性・光拡散性を利用することで、アンテナ・センサが一体化した照明により、景観・意匠性の向上を実現します。

樹脂は、発泡することにより低誘電化し、比誘電率(Dk)・誘電正接(Df)ともに大きく低下します。さらに、当社独自の超微細発泡(Micro Cellular = MC)技術では、大きさが10μmを下回る超微細な気泡を樹脂の中に均一に形成することができるため、ミリ波電波レベルの高周波の波長に比べても、小さな気泡径を有する材料となります。このことから、電波をほぼ完全に透過する物質として振る舞います。

一方で、超微細発泡樹脂(MCP)は、可視光領域全体で、良好な光反射性・光拡散性を有する材料です。

この2つの特長を同時に利用し、超微細発泡樹脂(MCP)で形成した光拡散反射板の背後に、無線電波を受発信する基板を配置し、無線通信と照明の機能が一体となった、意匠性の高い照明器具用途への利用が可能です。

微細発泡樹脂における比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)の関係

図1 各プラスチック材料における誘電正接(Df)と比誘電率(DK)の関係

アンテナ、無線器、センサの設置場所にお困りのお客様は、ぜひ下記に、ご気軽にお問い合わせください。

高速通信、IoT時代の到来

移動通信システムは1980年代の音声中心のアナログ方式である1Gから始まり、1990年代には電子メールやWebの閲覧が可能となったデジタル方式である2Gが主流となり、2000年代に画像や映像中心の高速データ通信が可能となった3Gの提供が開始されました。2015年頃からは4Gの提供が開始され、スマートフォンやタブレット端末による動画中心の超高速データ通信が可能となりました。そして、2010年台後半から2020年にかけて、世界中で相次いで5G(第5世代移動通信システム)サービスが開始されました。

5G通信の最大通信速度は4Gの10倍以上になり、スマートフォンでの動画視聴がより手軽になるなど、自動車の自動運転システムの進化、身の回りのあらゆるものがネットワークに繋がるIoT(Internet of things)への貢献が期待されています。

増加する通信機器・センサ

5G通信の主な特長は、高速・大容量、超高信頼・低遅延、多数同時接続といった3点が挙げられる一方、電波の周波数が高くなるほど、減衰しやすく、届く距離が短くなるため、例えば28GHz帯の5G電波が届く距離は約100m程度に留まります。そのため5G通信エリアの拡大には基地局を100m毎に設置する必要があります。

また、直進性が高く、遮蔽物によって電波が届かない領域が多くなるため、特に屋内等では中継機などの補助的な仕組みが必須になると予測されます。

加えて、IoT社会へ向かうに連れ、家電だけでなく、家屋・建造物内の様々なものが測定・データ化され、スマート化していくことが予測され、これに伴い、利用されるセンサも大幅に増えていくと考えられます。その時、問題になるのは、中継機やセンサの電波をどう効率的に届けるか、そして、それらをどう都市空間・生活空間の中にシームレスに導入するか、という点です。

アンテナ・センサと照明の一体化コンセプト

照明器具は、都市空間や生活空間を広く照らすために、見通しの良い場所に、数多く設置されています。また、照明だけでなく、広告や表示を目的とした看板も、街中には数多く存在します。

道路照明

屋内照明具

看板照明

アンテナやセンサの設置場所にも、同じことが求められます。従って、アンテナやセンサの機能を、照明に一体化できれば、そのために新たに機器を導入するスペースを省くことができ、より洗練された景観・空間を実現することができます。

そして、こういったコンセプトを実現するためには、超微細発泡樹脂(MCP)のように、電波透過性と可視光領域での光反射性/光拡散特性を同時に満たす材料が必要となります。

超微細発泡樹脂(MCP)の電波透過特性と光反射/光拡散特性

図2、図3は、無線電波の透過特性を示したものです。発泡していない材料に対し、超微細発泡樹脂(MCP)は、大幅に電波透過特性が向上しています。また、その透過特性に周波数依存性が見られないことも、この材料の大きな特長の1つです。

MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較(22~33GHz)

図2 MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較
(22~33GHz)

MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較(70~100GHz)

図3 MCPETとPET(無発泡)の電波透過性の比較
(70~100GHz)

図4には、平板サンプルに対して電波の入射角を変えた場合の透過特性を示します。超微細発泡樹脂(MCP)は、角度依存性がほとんど見られず、浅い角度で電波が入射しても、高い透過率を維持する材料です。

MCPETの電波透過の入射角依存性(22~33GHz)

図4 電波透過の入射角依存性(22~33GHz)

いずれのデータも、超微細発泡樹脂(MCP)における電波強度の減衰は0.1dbにも満たず、極めて良好な電波透過特性を有しています。一方、図4はMCPETの光反射特性を示したものです。可視光の全帯域で、極めて高い反射特性を有しています。

MCPETの光反射特性

図5 MCPETの光反射特性

(注) 反射率は酸化アルミ板との相対値です

さらに、超微細発泡樹脂(MCP)は、シート形状からの成形・抜き加工が可能です。ご希望の形状への成形が可能か分からないなど、不明点については技術相談も受け付けております。お気軽にお問い合わせ下さい。

図6 熱成型したMCPETの例

図7 打抜き加工したMCPETの例

以上のように、超微細発泡樹脂(MCP)は、高い電波透過性と可視光反射特性を両立するだけでなく、照明形状に合わせた成形も可能な材料です。従って、反射板としての超微細発泡樹脂(MCP)成形体の背後に無線基板を配置することで、照明と一体化し、アンテナやセンサとして能力を発揮させることが可能です。

白色塗装鋼板を使用した場合

(a)スチール製リフレクター

MC発泡体を使用した場合
反射板としての超微細発泡樹脂の背後に無線基板を配置した照明が、アンテナやセンサとして能力を発揮している様子

(b)MCP反射板

図8 MCP反射板のコンセプト

ちなみに、このコンセプトは一般的な白色塗装鋼板(反射板)では実現しません。鋼板は電波を透過しないため、その背後にアンテナやセンサを配置すると、無線器として機能しなくなります。

超微細発泡樹脂(MCP)の代表的な特性

MCPET MCPC(新規開発品③)
密度(g/cm3) 0.33 0.38
比誘電率 Dk 1.2 1.2
誘電正接 Df 0.0017 0.0015

新規開発について

古河電工ではお客様の要望に合わせて、既存のラインナップ以外の樹脂材料の発泡にトライする事が可能です。比誘電率(Dk)・誘電正接(Df)以外にも難燃性や耐熱性、厚みや密度など様々なご希望をお聞かせいただければ、これまでに培ってきた組成開発力と発泡技術によって新たな発泡材料を提案します。

お問い合わせはこちらからお願いいたします。