培った技術の応用と融合で事故を未然に防ぐ。モビリティの安全に欠かせない「周辺監視レーダ」とは?

私たちの生活を支えている自動車は、量産が開始された20世紀初頭から100年以上の年月をかけ、スピードや環境調和、安全性、居住性などを向上させてきました。こうした進化の延長として、交通事故の抑止と自動運転の支援という2つの側面から注目を集めているのが「ADAS(先進運転支援システム)」。古河電工グループが開発する「周辺監視レーダ」もADASを支えるセンサ機器の一つで、これまで当社が培ってきた放送・通信技術を応用して車両周囲の障害物を検知しています。世界トップレベルの検知機能を実現するために、いかにして開発と改良を重ねてきたのか。周辺監視レーダのもつ独自技術とともに、開発時と活用に至るまでの挑戦をご紹介します。

私たちの安全・安心なモビリティ生活を支える「周辺監視レーダ」

近年、自動車の安全性に対する意識の高まりから、「交通事故ゼロ」のモビリティ社会実現に向けた動きが世界的に進んでいます。それを支えるシステムとして注目されているのが「ADAS(先進運転支援システム)」。ADASとは、自動ブレーキ装置や急発進防止装置といった、ドライバーの安全な運転操作を支援するためのシステムの総称です。

古河電工グループの古河ASが開発・製造する「周辺監視レーダ」もADASの一つ。走行中や一時停止中、車両の前方・後方や死角から接近する障害物を検知してドライバーに知らせることで、安全な車線変更や駐車などのサポートをしています。

古河ASが開発・製造する周辺監視レーダ「MMR2」
※MMR:Multi Mode Raderの略

自動車の周辺環境をセンシングするADASのセンサには、光や超音波、赤外線などを使用したものがありますが、古河電工の準ミリ波を採用したレーダは、他のセンサと比べて夜間や悪天候でも性能が落ちにくいという特長があります。また、数m先の極近距離を検知できる強みに加えて、100m先にあるような遠方対象物も検知する改良が進んでいます。

見通しの悪い交差点では出会い頭の事故などが発生する可能性がありますが、周辺監視レーダはこうした事故の未然防止に貢献し、私たちの安全・安心なモビリティ社会を支えています。

周辺監視レーダのさまざまな検知機能

RCTA(Rear Cross Traffic Alert)
後進時接近物検知
駐車場からバックして出ようとしたときに後側方から近づいてきた車両を検知する。
BSD(Blind Spot Detection)
死角検知
自車の死角を並走している車両を検知する。
LCA(Lane Change Assist)
車線変更補助
車線変更時にスピードをあげて後ろから近づいて来た車両を検知する。
FCTA(Front Cross Traffic Alert)
前進時接近物検知
路地から出ようとしたときに側方から来た歩行者を検知する。
最新型の周辺監視レーダ「MMR2」は人気のSUVにも搭載されている

フォークリフトの安全性確保や、道路での監視システムとしても活躍

周辺監視レーダは乗用車だけでなく、工場や物流倉庫などの作業現場で使用されるフォークリフトにも搭載されています。フォークリフトは、人や荷物、他の車両が混在した複雑な作業現場や、センサへの付着物(水滴、汚れ)が付きやすい現場、さらには暗い場所や夜間などでの使用も多いことから、より高い安全性と耐環境性が求められており、こうした要求に応える手段として、周辺監視レーダの採用が拡大しています。

フォークリフト特有の走行進路の変更や走行速度に応じて、検知エリアや対象物を選定して検出することが可能に

さらに、周辺監視レーダは特定の場所に固定された状態で、定点監視することも可能です。古河電工では、周辺監視レーダの検知範囲の広さや耐環境性の高さ、夜間や逆光、悪天候でも安定した検知性能をもつ技術を活かし、道路における通行車両の監視システムや、重大事故につながるような違反車両の検知にも応用しています。

車載用途だけでなく、定点監視用途でも周辺監視レーダの活用が進んでいる

世界トップクラスの性能の背景には、長年培った「放送・通信」技術がある

2016年に古河ASが開発した世界トップレベルの検知性能と安定性能を有する周辺監視レーダ「MMR1」の最大の特長は、「準ミリ波(24GHz帯)パルス方式」のレーダを使用したことでした。

従来の監視レーダは、電波を“連続”的に発信し、送信波と受信波の周波数の差から対象物を検出する周波数変調連続波方式を使用することが一般的でした。しかし、バンパ内には多くの反射物があるため、この方式では計測が不安定になることがあったり、トラックなどの大型の障害物が近くにあった場合、他の対象物の信号が埋もれてしまったりと、安定した計測性能に関する課題も抱えていました。

一方、古河ASの周辺監視レーダで採用しているパルス方式のレーダは、電波を“断続”的に発信し、受信波が返ってくるまでの時間で対象物との「距離」を、返ってきた受信波の周波数で「相対速度」を計測します。このように距離と速度を個別に計測することで、障害物や人、標識など複数の対象物の個別検知が可能になりました。また、準ミリ波である24GHz帯の電波には、降雨などによる性能の減衰やバンパを透過する際の伝搬損失が比較的少ないという特長があるため、検知性能においても優れています。

「準ミリ波パルス方式」の測定方法。対象物を個別に検知して距離や速度を計測する

こうした高性能な準ミリ波パルス方式を周辺監視レーダに採用できた背景には、1958年に当時最大の電波塔であった東京タワーにテレビ放送用のアンテナと給電線を設置するなど、古河電工が長年培ってきた高周波技術の蓄積があります。

また、黎明期から最先端領域で研究・開発に注力してきた通信分野においても、光通信で培った信号伝達関連技術がパルス方式のレーダに活用されています。このように周辺監視レーダは、古河電工グループがこれまでに培ってきた放送・通信技術と車載電子制御ユニット技術を掛け合わせた結晶として生み出されたのです。

高性能化と小型化・軽量化。相反する課題を解決するための挑戦とは

2022年に開発・量産を開始した第2世代の周辺監視レーダ「MMR2」。レーダの基本機能である検知範囲(距離・角度)と検知速度精度、定速度をさらに高性能化するとともに、製品の小型化や軽量化にも成功しましたが、その裏側には古河ASの並々ならぬ挑戦がありました。

本来、レーダの小型化のために基板の面積を小さくすると、部品同士の密集度が高まり、ノイズや発熱への対策を講じる必要が出てくることから、性能向上と小型化・軽量化の両立は業界的にも困難な課題とされていました。

この難題に対して、古河ASは部品や電子回路のパターンを見直したり、配置を再設計したりすることで解決。容易な道のりではなかったものの、さまざまなアイデアを出し合いながら試行錯誤を重ねた結果、ついに名刺サイズまで小型化することに成功しました。

古河AS製周辺監視レーダの進化

2022年製の「MMR2」は2017年製の「MMR1」に比べて小型軽量化、高性能化を達成

また、周辺監視レーダの性能において、周囲の環境に影響されない「耐環境性」も重要なポイントの一つ。周辺監視レーダは、水滴や泥汚れが付着する環境、急激な温度・湿度変化がある環境など、さまざまな場面での使用が想定されています。

そのため、こうした厳しい環境条件にも適応できるよう、古河ASは外気42℃や-34℃といった過酷な環境でも周辺監視レーダの実証実験を行い、現地で改良を加えながら再設計を繰り返したことで、建設業や農業、輸送業などの現場においても、人の命を預かるのに必要とされているレベルの安全性確保を実現しました。

レーダ機能を応用し、社会課題解決に貢献するインフラシステムへ

私たちの命を守り、安全・安心なモビリティ社会の実現に欠かせない周辺監視レーダ。今後は車両の製造時に組み込むだけでなく、カーナビのように後付けすることも可能にしたいと考えています。

また最近では、このレーダの特長を活かし、介護施設などでプライバシーを守りつつ動体検知する人感センサや、車内での子どもの置き去りを防止するセンサといった、交通分野以外への応用も模索しています。

より多くの車両に周辺監視レーダが搭載されることは、事故の抑制、事故の減少につながり、ひいては車両本体の寿命の延伸や、事故による渋滞、緊急車両の出動によるCO2の排出量削減にもつながるなど、SDGsやカーボンニュートラルの側面での貢献も期待できます。周辺監視レーダが、さまざまな場所で活躍し、社会課題解決に寄与するインフラシステムとして欠かせない製品になるよう、今後も研究・開発を重ねていきます。

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