働き方を、働く場所から変える。古河電工新オフィスに取り入れられた「対話」と「つながり」を強化する仕組みとは?

2021年7月、古河電工は本社を丸の内仲通りビルからTOKYO TORCH街区内の常盤橋タワーに移転。オフィスという環境的な面から従業員一人ひとりの働く意識を変えて、「新しい働き方」を実現することが移転の大きな目的となりました。当社が実践している働き方と、それを体現する新しいオフィスの特徴について、移転プロジェクト全体のリーダーを務めた総務部プロパティマネジメント課長の河井健一さんと、働き方改革の観点からプロジェクトの運用を担った人材・組織開発部組織開発課の鮫島友美さんに話を聞きました。

働き方の多様性を後押しする、多彩なゾーン&スペースづくり

—古河電工の本社に勤める方たちは2021年7月から新オフィスで働いているそうですが、そもそもなぜ本社を移転することになったのでしょうか?

河井「端的に言うと、従業員の働き方をこれまでのやり方に縛られずガラリと変える必要がある。そして、働き方を変えるには働く場所を変える必要がある、と感じたからです。当社の社長である小林は、日頃から『言いたいことを言い合える組織になろう』『失敗を恐れず、自由かつ積極的に挑戦しよう』と従業員に語っているのですが、それを実現するためには、より働きやすいオフィスをつくるという環境面からのアプローチがまず必要だと考えたのです」

リスクマネジメント本部総務部プロパティマネジメント課長 河井健一

鮫島「ここ数年で本社の勤務者数が増えたこともあり、以前のオフィスはとにかく手狭でした。コミュニケーションをとるためのスペースも少なく、ちょっとした話でも会議室を予約するほどで。オフィスの構造的に、部署ごとの空間が壁や柱で明確に区切られていたので、他部署の人と会話する機会も少なかったと思います。

先ほど河井からもあったように、当社はコミュニケーションが活発で積極的に挑戦できる組織を目指しています。そして、このワークスタイルを実現するには働く場所を自分の意思で自由に選べてさまざまな人と交流できるワークプレイスでなくてはならない、と感じていました。ビルの老朽化など、移転せざるを得ない物理的な理由があったわけではないので、ある意味『自発的』な移転だったと言えますね」

戦略本部 人材・組織開発部 組織開発課 鮫島友美
旧本社の様子。対向島型のレイアウトで、部署を越えた交流が取りづらかった

—理想のワークスタイルを実現するために、実際のオフィスにはどのような仕掛けが施されているのでしょうか?

鮫島「プロジェクト始動時、本社で働く従業員主導で移転コンセプトを『MIX! OWN COLORS 〜新しい色で共に未来を描こう〜』に決めました。一人ひとりの個性を尊重しながら、多様な人々の多様な働き方を実現する。そして、発揮された色をミックスして、新たな価値を生み出していく。ダイバーシティを念頭に置きながら、顔を知らない人同士でもコミュニケーションがとれて絆を深められる『つながり』を重視した環境をつくろうというコンセプトです」

河井「このコンセプトを体現するべく新オフィスに取り入れたのが、業務内容やそのときの気分に合わせて働く場所を自ら選択できるワークスタイル『Activity Based Working(ABW)』。執務スペースの固定席を廃止し、フリーアドレス制を取り入れたことが、旧オフィスから大きく変化したことです。

また、今までのオフィスイメージを変えるべく、執務スペースはもちろん、会議などコミュニケーションを行うスペースにも、いくつかのバリエーションを持たせました」

執務スペース。フリーアドレス制にすることで、従業員同士が偶発的に出会い、協働・共創していける環境を目指している
執務スペースの一角は、八重洲の景色を窓から眺めながら作業できる。
ハイチェアにすることで、立っている人とも目線を合わせて会話することが可能に
リアルとオンライン、ハイブリッドで使用できるミーティングスペース
大人数で使用できるミーティングスペースも、ガラス張りにすることで開放的な雰囲気に

鮫島「さらに、これまでのオフィスにはなかった2種類の『リフレッシュゾーン』を設けたのも大きな特徴です。心身両面のストレス軽減・健康促進(Well being思想)を促すことを目的としていて、従業員が気分転換できる空間になっています」

リフレッシュゾーンの一つである「ビタミンスペース」。
従業員おすすめの書籍などが置いてあり、新しい情報に触れて刺激を受けることができる
リフレッシュゾーンには、一人で静かに過ごせる「リラックスブース」も。
30分以内であれば仮眠もOK

若手メンバーが主導する、ボトムアップ型の移転プロジェクト

—移転プロジェクトは、どのようなメンバー構成やスタイルで活動していたのですか?

鮫島「プロジェクトメンバーは、20代、30代の若手を中心に部署を横断する形で発足しました。異動や追加募集などもあり、のべ40人ほどが携わりました。7つの分科会に分かれて、それぞれが週1回程度集まりながら自主的な活動を行いました。もちろん、通常の業務と並行して進めなければいけないので両立が大変だったと思いますが、メンバーは皆、非常に積極的に取り組んでくれました」

河井「今回のような、さまざまな従業員がフラットに集まる大規模な部署横断型のプロジェクトは、これまでに社内でも例がなかったと記憶しています。上からの指示に従うトップダウン型ではなく従業員主導のボトムアップ型で物事を進めていった点も、私たちにとっては大きな挑戦でした」

鮫島「このプロジェクトをもっとも象徴するシーンが、フロアごとの具体的なレイアウトやデザインを決定するタイミングで実施した若手メンバーから社長に対しての報告会です。社長の意向を伺うのではなく『このような方向性で進めます』という自分たち主導の報告を行いました」

移転プロジェクトに携わる若手メンバーが、小林社長に対して新本社のレイアウト・デザイン案を報告している様子

河井「社長は当初から従業員の視点を尊重する姿勢で、移転プロジェクトに関しても基本的に全てを任せてくれました。だからこそ、このような場も実現したのだと思います。普段は面と向かって話す機会が少ない若手従業員の真摯な提案に対して、そのクオリティに驚きつつ『涙が出るほどうれしい』と社長自身が語ったことは、今でも心に残っています。

提案内容を考える段階でも、若手メンバーは積極的に自分の意見を出してくれました。彼ら/彼女らが出したアイデアのほとんどが新オフィスに反映されていると思います」

鮫島「ちなみに、オフィスについて検討していくうちに服装のルールについても話が及び、部門に関係なく『Tシャツのみ(上着なし)、ジャージ、短パンやサンダルなどの踵のない靴でなければなんでもよし』が本社でのドレスコードになりました。オフィスのあり方を考えるのは、働き方そのものを考えるのと同じ。この移転プロジェクトは本社内のルールを刷新するきっかけにもなりましたね」

働く場所から、新しい古河電工の姿を見せていく

—移転から1年半ほど経ちましたが、従業員の皆さんからはどんな声がありましたか?

河井「移転1年後に実施した社内アンケートでは、新オフィスに『満足している』と答えた従業員の割合が88%でした。移転当初は『見晴らしがいい』などパッと見でわかりやすい部分への感想が多かったのですが、実際に働いていくうちに『多様なスペースがあって使いやすい』『他部署との交流が増えた』などの声も挙がってきて、私たちが目指す働き方の実現に大きく近づいているように感じています」

鮫島「『テレワークも快適だけど、たまには出社するのもいいよね』と思ってくれる従業員も増えたような気がしています。旧本社では、部署が違うと1年間全く顔を合わせないこともよくあり、他部署のスペースにも足を踏み入れづらい雰囲気でした。

でも今は、出社してロッカーに荷物を置いてどの席に座ろうか社内を歩いていると必ず誰かに会って挨拶するし、他部署の人と会話していてもまったく違和感がない。業務上での関わりに関係なく、いろんな人と交流しやすくなったと思います」

出社した従業員同士が顔を合わせるロッカースペース
3フロアにまたがるオフィスの中央に設置された中階段は、フロア間のスムーズな移動を可能に

鮫島「ちなみに社外の方からは、新オフィスに対して良い意味で『古河電工らしくないね』とよく言われます。『あのお堅い会社が、こんな先進的なオフィスに……!』と驚く人が多いようです。実際、私たちもそう思っています(笑)」

—最後に、今後の展望をお聞かせください。

河井「実は、新オフィスへの要望として『会議室を増やしてほしい』という声をもらっています。ただ、よくよく話を聞くと、テーマ的にはわざわざ会議室を利用する必要がない、つまりオープンなスペースで行なっていい打ち合わせであることもたくさんあり、打ち合わせ=会議室でするものという発想はまだまだ根強いように感じました。新しいオフィス環境をより活かして働けるように、今後は従来の働き方に対する意識改革なども、一層促していきたいです」

鮫島「今回の移転は、今後の当社グループ全体の働き方改革に影響する重要なプロジェクトだったと思います。古河電工は140年近い歴史をもつ会社ですが、その一方で時代に合わせて変化していく意志も持ち合わせていることを、このオフィスを起点に見せていきたいですね。本社の席数の問題はあるものの(本社在籍者数の約50%。平均出社率約30%(注))、今後はもっと積極的に、従業員一人ひとりが顔見知りのようになれる仕掛けもつくりたいです。また、今後本社以外の各所やグループ会社で執務環境を改善する際には、今回の移転プロジェクトでの知見を活かして、積極的にサポートしていきたいと思います。

(注) 2023年1月時点

ワークプレイスが変われば、従業員のマインドやワークスタイルも変わり、新しい古河電工をつくっていけるはず。過去から未来へという縦軸のつながりと、ダイバーシティという横軸のつながりを大事にしながら、今後も従業員がより働きやすい環境をつくっていきます」

エレベーターホールからオフィスのエントランスへ続く絨毯には古河電工を象徴する「銅」が敷かれている