林業の人手不足に省力化と安全性向上への貢献で応える、特殊大型ドローンの技術とは?

近年、従事者数の減少や労働負荷の観点で大きな課題を抱えている林業。そのような林業分野における課題を解決するべく、古河電工グループは島根県邑智郡美郷町でドローンを活用した作業支援を推進するための実証事業に取り組んでいます。今回は、そこで用いられている古河産業の特殊大型ドローンの特長と、実用化に向けた取り組みについてご紹介します。

林業の救世主になれるのか。人手不足の解決策としてドローンに注目

日本は国土の約67%を森林が占める、世界有数の森林国。さまざまな生物が棲み、多様な生態系が形成されています。その中で林業は、木材を使用した林産物を生産するだけでなく、生態系や環境の保全においても大きな役割を果たしている産業です。木を育てる過程で豊かな森林生態系を生み出し、地球温暖化の原因となるCO2を吸収したり、根を張ることで山崩れを防いだりと、私たちが暮らしていく国土を守る上でも欠かすことができません。

しかし現在、林業は少子高齢化の影響などで深刻な人手不足に陥っており、作業者の安全を確保しづらいという課題も抱えています。
そこで近年、注目されているのがドローン活用をはじめとした作業支援。例えば、車が入れない場所への荷物を、人やヘリコプターの代わりに大型ドローンが運搬することで、業務効率化やコスト削減を実現しようとする狙いがあります。

地方自治体とタッグを組み、実用化に向けた実証実験をスタート

古河電工のグループ会社である古河産業は、販売をメインビジネスとしつつ、ドローン分野においても一定の実績とノウハウを持っています。

古河電工と古河産業は、ドローン分野で培った知見を活かして林業の課題解決に貢献するため、2021年に島根県とタッグを組み、苗木運搬の「林業省力化事業」、さらに翌2022年には島根県邑智郡美郷町と協働で獣害対策用などの資材を運搬する「林業イノベーション実証事業」における実証実験を行いました。

両事業の実験場所となった美郷町は、島根県の中山間地域に位置しており、人口が減少傾向にある課題先端地域。しかしその一方で、教育や介護などの現場でデジタル技術をはじめとした先進的な取り組みを積極的に導入している自治体で、住民同士のコミュニケーションも非常に活発です。古河電工とは2020年からAIを活用した獣害対策や防災・減災対策に取り組んでおり、当社にもさまざまな意見や提案をしてくださる重要な共創パートナーです。

このような背景のもと行われた実証実験は、古河産業のドローン分野における検査・測量・運搬などの実績や知見を、林業分野にも適用していくための重要な場となりました。

古河産業が開発する「特殊大型ドローン」。最大積載重量49kgで、機体と両端に積んだバッテリーの重量を合わせると約80〜90kgになる

実証実験では、古河産業が提供する特殊大型ドローンを用いて、苗木や資材(架線集材用および獣害対策用)を急傾斜地や遮断地域、未舗装地域などへ運搬しました。

これまで、山間部などの交通が不便な場所へ人の手で資材を運搬するときは、荷物を背負った状態で山道を歩く必要があり、大変な重労働となっていました。また、ヘリコプターを利用して搬送する場合も、数トンレベルの荷物を運ばなければ採算が取れず、コスト面で折り合いをつけることが難しいという実情もありました。

一方、特殊大型ドローンを使用すると、約350mの距離を往復3分程度で運搬することが可能となります。したがって、大幅な時間短縮や省力化、作業者の安全性の向上への貢献といった、さまざまな課題の解決が期待できるのです。

従来の大型ドローンにはなかった2つの機能とは?

今回の実証実験で古河産業が重視したのは、「実際に現場で運用することが可能な、安全・安心なドローン」であること。

林業の現場で実際にドローンを活用するとなると、単に重量物を持ち上げられるだけでは不十分で、荷物を吊り下げた状態で長距離を1日に何往復も飛行できるほどの耐久性や実用性が求められます。そのため、より安全に運搬業務を遂行できるよう、機体性能の向上および運用工法の最適化を図る必要がありました。

そのような“持続的な運用”をサポートするために、実証実験に用いた特殊大型ドローンには、従来のドローンにはなかった2つのメイン機能を搭載しました。

1つ目の機能は「自動キャリブレーション」。一般的にドローンを操縦するときは、ドローンに内蔵されたコンパスが磁北を正しく認識できるよう、飛行前に機体を左右に回転させて試験飛行をするキャリブレーションが必要とされます。

しかし、この作業を幅約3m・本体重量30kg以上の大型ドローンで行う場合は、周囲に障害物がない比較的広いスペースの確保が必要な上に、3人程度で機体を抱えて回転させなければならない、という人手の面での課題もありました。

そこで古河産業はパートナー企業とともに、これまでに培ったドローン開発での知見を活かして、試験飛行の際にドローンが自動でキャリブレーションする技術を搭載。これにより、現場の省力化と安全性向上への貢献が可能になりました。

飛行前、特殊大型ドローンが自動でキャリブレーションを行う

2つ目の機能は、荷物の「横揺れ防止」です。特殊大型ドローンは、荷物を吊り下げた状態で上空数十mを約6m/sの速さで移動します。このとき、機体を止めたタイミングで荷物が大きく揺れるため、正確な地点への荷下ろしが難しくなってしまいます。

そこで、従来はドローンを遠隔操縦するオペレーターが機体を前後左右に動かして揺れを抑える、空中でホバリングさせて揺れが止まるのを待つなどして、この問題を解消していました。しかし、長距離飛行の場合、操縦場所からは荷物の揺れの様子が見えづらくなるため、オペレーターには高度な操縦技術が求められます。また、荷下ろしの度にホバリングさせると時間的なロスが発生してしまうことも課題でした。

こうした背景から、特殊大型ドローンには古河産業のパートナー企業が独自に開発した振動抑制機能を搭載。これは、吊り荷運搬で起こりうる横揺れに対してドローンの機体が自動で揺れを迎えにいくようにして動き、概ね1.5回の動作で横揺れを止める機能であり、荷下ろしする際のオペレーターの負担軽減を可能にしました。

運搬中の様子。荷物を吊り下げ、秒速約6mで移動する
横揺れ防止機能で荷下ろしが簡単に

こうして、美郷町で行なった約2年間の実証実験を通して、特殊大型ドローンの改良に注力しました。現場の作業者の声や要望を聞き入れながら、数百回もの飛行実験を重ね、性能をブラッシュアップしたことで、現場に適した工法、現場の作業者の負担を軽減するドローンの開発に成功したのです。

特殊大型ドローンを操作するオペレーター

将来的には、特殊大型ドローンを現場の作業者主体で、開発側のサポートがない状態でも持続的に運用できる体制を構築するため、自治体の方々を対象としたオペレーター育成講習や、地元企業によるドローン運用支援にも積極的に取り組んでいます。

今回の実証を最終形とするのではなく、今後も古河電工グループの最新技術を活用して「次なる課題を発見し改良する」サイクルを繰り返すことで、パートナーも含めたさらなる発展と成長を目指し、林業DXにも挑戦していきます。

動画:島根県美郷町での特殊大型ドローン活用と実証実験の様子

他産業や災害時にも…。多分野に広がるドローン活用の可能性

この特殊大型ドローンは、林業以外の分野においても、電力事業における鉄塔の保守保全作業や、農業・建築・土木分野などにおける屋外での重量物運搬など、さまざまな産業に活用できる可能性を秘めています。

古河電工グループは電力ケーブルや光ファイバ・ケーブルをはじめとした社会インフラを支える製品群を長らく提供してきました。しかし近年、環境問題の影響などにより社会の安全・安心が揺らぎはじめていることから、これらの問題解決により一層貢献していく必要があると考えています。

例えば、災害時に交通機関が遮断された地域への物資輸送としての用途も考えられ、実際に美郷町からも、防災用の水をまとめて運ぶ際にドローンを使用したいというご要望をいただいています。

現在、古河産業では積載重量が40kg、24kg、15kgといった中・小型のドローンも揃えており、今後はお客さまの需要に合わせて、より細やかなサービスを提供していく予定です。ドローンがより多くの分野で活用される未来を実現するために、古河電工グループの運用体制も整えながら、全国のお客さまとの連携や共創関係を深めていきたいと考えています。

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