これからの古河電工を支えるために。「人の力」で成功した「OneFIT Phase3 基幹業務改革プロジェクト」 営業システムの刷新

古河電工では、2016年から「OneFIT Phase3 基幹業務改革プロジェクト」に取り組んできました。これは、当社内で事業部門ごとに異なっていた経理・購買・営業領域の基幹業務用システムを全社で統一する一大プロジェクトです。システムを統合するとひと口に言っても、当社は創業から130年以上の長い歴史を持つ企業であることに加え、13 (当時)もの事業部門が存在する大きな組織であることから、プロジェクトの完遂は困難を極めました。今回は、本プロジェクトの販売業域を担当していた事業・営業チームの中で、チームの中心的メンバーであった3名にインタビュー。構想段階から2022年1月の稼働に至るまで、壮大な道のりを振り返ります。

  • OneFIT( One Furukawa IT)とは、2014年度から活動している古河電工グループの情報システム化戦略の総称で、Phase3は業務システムの標準化を目的としています。
  • とよさわ たくや豊沢 卓也
    DXIC(デジタルトランスフォーメーション&イノベーションセンター)PJ品質監査室 室長

    システム構築のエキスパート。綿密なシミュレーションでメンバーに道筋を示し続け、プロジェクトをゴールに導いたチームリーダー。

  • でぐち まきこ出口 牧子
    DXIC コーポレートDX・標準化推進部販売システム推進課 課長

    幅広い業務経験を活かして新システムでの業務実現に向けたチームワークをけん引。業務改革活動の要。

  • せきぐち きくみ関口 紀久美
    機能製品統括部門企画統括部AT企画課 課長

    貿易実務のエキスパート。事業部門でのグローバルビジネスの経験を活かし、貿易取引の業務標準化とシステム化を推進。

ビジネス存続の危機。古くて不安定なシステムを刷新するために

—みなさんはOneFIT Phase3 事業・営業チームの中心メンバーとして尽力されたとのこと。どのような立場でこのプロジェクトに携わったのでしょうか?

豊沢「私はプロジェクトマネージャーとして、販売領域のプロジェクト全体を見渡して率いる立場でした。2016年、今回のプロジェクトの前身として『基幹業務改革プロジェクトチーム』が発足したときの人数は数名。それがシステム稼働までの約6年で、専任・非専任、社員・非社員(派遣スタッフなど)を含めて約100名にもおよぶ大きなチームになりました」

DXIC PJ品質監査室室長 豊沢卓也

出口「私は当時、営業の企画部門に所属していました。営業の業務全般を把握していること、これまでにさまざまな部署を経験して事業部門ごとの業務の特色をよく知っていることから、このプロジェクトに参画することになったんです」

DXIC コーポレートDX・標準化推進部販売システム推進課課長 出口牧子

関口「私は事業部門に所属していて、グローバルビジネスの構築などに長く携わってきました。そこでの知見が買われて、事業部門の業務と兼務する形でプロジェクトチーム内の貿易取引リーダーのような立場で参画しました」

機能製品統括部門企画統括部AT企画課課長 関口紀久美

—OneFIT Phase3基幹業務改革プロジェクトは古河電工において、時間も人材も予算もかけて実施した大プロジェクトだと聞いています。そもそもなぜ、このプロジェクトは発足したのでしょうか?

豊沢「今回のプロジェクトは、社内の営業・経理・購買の3つのシステムを統合しようというものです。まず、私たちのチームの営業システムは、お客さまからの注文を受注して売上・請求まで管理するシステムです。導入当初である1970年代のアーキテクチャーに機能を継ぎ足し続けて使用していた経緯があり、事業継続や新規ビジネスへの対応が難しくなっていました。

経理部門でも20年以上同じシステムを使い続けている状態で、プロジェクト発足時はちょうど提供元のサポートが切れてしまうタイミング。購買システムは当社内で作ったものでしたが、これも数十年に渡って使用しているものだったので、これら全てのシステム刷新が求められていました」

関口「こちらの図を見ていただくと、わかりやすいかもしれません。

プロジェクト開始前の営業システムのイメージ
(プロジェクト説明資料より抜粋)

一番下の丸太がこれまで使ってきた古いシステムで、その上に立っている複数の柱が各事業部門のシステムです。土台部分は、もはやメンテナンスもできないようなもろい状態にさまざまな応急処置を施している状態。また、その上に立てている柱はそれぞれ構造が異なり、ヒビが入っているところもある。このような不安定な基盤の上に、新規事業や販売戦略、中・長期計画などを乗せていたんです」

出口「当社の事業の多様性、幅広さゆえに構造が複雑になってしまったんですよね。システム全体を把握してメンテナンスに対応できる人材も退職していっていましたし、システムが故障して復旧困難になったら、最悪の場合、事業が止まってしまう可能性も。今後を見据えて、一刻も早くどうにかしなければいけない状況でした」

膨大なタスク整理とシミュレーション、周知への道のり

—全社を巻き込んでの大がかりなプロジェクト。まずは何から進めていったのでしょうか?

豊沢「まず『2021年8月から新システムを稼働する』というゴールを定め、そこから逆算して何をやらなければいけないかを洗い出していきました。

システムを刷新するということは、これまで使ってきたシステムを手放し、業務を見直すということ。そのためには、各事業部門の特徴や課題を把握して、どのようにして新業務へ切り替えていくかを決める必要がありました。

また、使い慣れているシステムを刷新することに対して従業員たちに納得してもらうこと、新システムを使いこなす知識やノウハウを提供することも重要だと考えていました。そこで、新業務/新システムへ刷新する活動もシミュレーションし、徐々にステップアップする計画を立てたんです」

関口「今回の社内プロジェクトは当社の直近30年で最大級のもの。これほど規模が大きなプロジェクトを仕切れる人はなかなかいないと思うんです。そんななか、豊沢さんがプロジェクトマネージャーとして完遂までの明確なタスクを丁寧に打ち出してくれたのは、本当にありがたいことでした。これは、プロジェクトや会社への愛がないとできないことだと思います」

豊沢「愛というよりは、義務感が大きかったかもしれません(笑)。

具体的なステップとしてはまず、膨大な数の自社製品に「商品コード」を付けることから始めました。驚かれるかもしれませんが、当社ではお客さまから注文があった際、製品名を手打ちで製造部門に伝えるアナログな方法が踏襲されていたんです。そこで、各事業部門で担当者を選出してもらい、製品のカテゴリ・品目別にコードを作成。最終的に数万件もの製品にコードをつけました」

出口「商品コードの作成とともに、業務フローの標準化も進めました。当社の製品は、自社で製造するものもあれば、外部の企業へ委託して製造するものもあり、その工程はさまざま。これらを整理しないと新システムへ落とし込んでいくことが難しい事情がありました。そこで、『ビジネスモデルシート』という業務フローのパターンを可視化するシートを作り、事業部門のみなさんに記入していただきました」

関口「この『ビジネスモデルシート』のフォーマットを作るのも大変でしたね。どのようなフォーマットであれば抜け漏れなく整理できてベストなのか、検討するポイントが数多くありました。ほかにも、記載する側の事業部門のみなさんにシート記入の目的や意味を理解していただくため、説明会を実施したり、実際に記入してみるワークショップを開催したり。

あまりにもやることが多過ぎて、1週間に50以上のミーティングが組まれていました(笑)。豊沢さんや出口さんのようなコアメンバーとは1日中顔を合わせているような状況で、当時は家族よりも一緒にいた気がします」

成功の裏にあったのは、泥臭く丁寧なコミュニケーション

—プロジェクトを進めていくうえで、具体的にどのようなことがポイントとなったのでしょうか?

出口「事業部門のみなさんにプロジェクトの意義を理解していただくことですかね。新システムへの移行は、いわば露天風呂付きの注文住宅から建売住宅へ引っ越すようなものなんです。これまで利便性やスピード感を求めて、それぞれの事業部門がやりたいように建て増しをして、思い思いに個別最適化してきたシステムを『みんな同じ』間取りにするわけですから。

左側の旧システム(Eプロ)から、右側の新システム(SAP)へ移行するイメージ
(プロジェクト説明資料より抜粋)

老朽化したシステムを変えなければならないことに対しては理解を示してくれるものの、今と同じ機能は保証してほしいと考える人も多く、そうした気持ちもわかるので、説得が大変でした」

関口「説得には、『誰が語るか』も重要です。信頼できない人の話にYESという人はいませんよね。その点、会社全体の業務を知っていて、説得力のある話ができ、人脈もある出口さんは適任でした。どんなに素晴らしいマニュアルがあってもカバーできない点だと思いますから、ありがたかったですね」

豊沢「各事業部門もみなさん通常業務を抱えていますから、本プロジェクトへ人材を出すことが難しいケースもありました。そんなときは事業部門と膝を突き合わせて交渉したり、ときには本部部門にも協力を仰いだり。結果全ての事業部門にメンバーとして参画してもらうことができました。

また、古河電工にはグループ会社が多く、システム移行が影響を与える範囲も非常に広いため、グループ会社の人たちとも連携して、しっかりコミュニケーションをとることに注力しました。当初の予定より遅れての稼働開始にはなりましたが、どれもなくてはならないやりとりだったと思います」

出口「本当に、何よりもコミュニケーションが重要でした。さまざまな課題をタスク化して、実行に向けて綿密に準備して、関係者が密にコミュニケーションを取り合い一丸となって進めたからこそ、やり遂げることができたのだと思います」

関口「豊沢さんが練ってくれた計画に則って、出口さんが『この人が必要!』という人をさまざまな部署から集めてくる。そして集まったメンバー同士で想いを共有し、それぞれの役割を果たしながらプロジェクトを推し進めていく。一筋縄ではいかないことばかりでしたが、完遂できるメンバーに恵まれたことは幸運でした」

プロジェクトで撒かれた種が、花開く組織を目指して

—最後に、OneFIT Phase3 基幹業務改革プロジェクトでの経験を通じて、今後どのようなことに取り組んでいきたいと考えていますか?

豊沢「今回のプロジェクトでは、営業・経理・購買の3分野のシステムを統合しましたが、古河電工にはもう1つ要となる『生産』があります。ここは、まだ昔ながらのシステムを使い続けていて、今は変換マスターを用いて新システムと一時的に連携させているところもあります。これらの生産システムを刷新し、一時的な仕組みをなくしていくことが目先の目標です」

関口「そうですね。ほかにももう少し全体的なところでいうと、私は今回のプロジェクトを通して、何かをやり遂げたいときは、綿密な計画を立て、関係者を巻き込み、チームとして取り組んでいくことが重要だと学びました。それを事業部門での活動にも活かしていきたいです」

出口「新システムへの移行がひと段落ついたとき、一人のメンバーが『これをやり遂げたんだから、私たちはこの先何でもできるよね』と言いました。その言葉が本当に嬉しかったんです。今回のプロジェクトの経験を活かして、メンバーたちが今後さまざまな場面でリーダーとなり、会社をよりよくしてくれたら嬉しい。私自身は、そんなみなさんの背中を押していきたいです」

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