一筋縄ではいかないことだらけ。メンバーの奮闘によって成し遂げた「OneFIT Phase3 基幹業務改革プロジェクト」

2016年から2022年にかけて行われた、営業・販売および購買・経理の基幹システムを刷新する「OneFIT Phase3※1 基幹業務改革プロジェクト」。特に、長年事業部門ごとに使用していた別々の販売システムを全社で統一するには、各事業部門メンバーの細やかで根気強い協力が不可欠でした。

なかでも重要な役割を果たしたのが、商品データの集約や受注・製造ルートの整備を繰り返し行った「事業部門WG(ワーキンググループ)※2」メンバーと、入力画面の確立やSAP(刷新にあたり導入した新システム)稼働後の教育・フォロー役を担う「SAPパートナー」。今回はそれぞれの代表者7名に、当時の苦労やシステム完成までの道のりをうかがいました。

  • ※1
    OneFIT( One Furukawa IT)とは、2014年度から活動している古河電工グループの情報システム化戦略の総称で、Phase3は業務システムの標準化を目的としています。
  • ※2
    事業部門WGには、商品コードWGと販売管理業務WGが含まれます。
  • あきやま しょうた秋山 翔太
    機能製品統括部門AT・機能樹脂事業部門機能樹脂エンジニアリング営業部 4課出身(現・古河電工労働組合 本社支部 執行委員長)
  • せいの よしひさ清野 義久
    電装エレクトロニクス材料統括部門企画統括部銅条・高機能材企画課
  • よりかね あきこ寄兼 亜希子
    営業統括本部企画統括部営業推進部業務改革課
  • はやさ いくこ早佐郁子
    古河エレコム株式会社管理本部企画部
  • えがわ あすか江川 明日香
    機能製品統括部門AT・機能樹脂事業部門AT技術・営業部営業管理課
  • ながしま りょうこ長島 涼子
    営業統括本部セールス統括部電装エレクトロニクス営業部第2課
  • みのる ようこ實 陽子
    営業統括本部セールス統括部産業インフラ営業部電力課

旧システムには課題が山積。解決のため、各部門から精鋭が集結!

—プロジェクトメンバーのみなさんは、これまでの経験やスキル、人脈を買われて選ばれたとうかがっています。プロジェクトに参画することが決まったときの想いや、選出の理由について、ご自身ではどのようにお考えでしょうか?

清野(事業部門WG)「私は事業部門WGのワーキングリーダーとして初期から参画しています。現在所属している企画部門に移る前は営業をやっていたので、営業の動きと事業部門の動きの両方がわかる人材として、選ばれたのかなと思います」

秋山(事業部門WG)「私も機能樹脂部門で扱うすべての製品を担当したことがあり、生産管理における工場側の動きや営業・物流の動きを理解していたことから選ばれました。実は当時、同時期に立ち上げた別のプロジェクトに専念したいと思っていたので、兼務することに正直戸惑いがありました。一方で、システム刷新の必要性は強く感じており、誰かがやらなければとも思っていましたね」

早佐(事業部門WG)「私は古河エレコムという古河電工グループの販売会社に所属しています。弊社からは私を含めて5人がこのプロジェクトに参画したのですが、5人とも営業の実務を熟知していたので、心強く思いながら取り組みました」

江川(SAPパートナー)「私は古河電工の営業管理課に所属していて、海外向けの貿易実務を担当しています。プロジェクトに貿易の知識を持つメンバーが必要だということで、参画しました。」

長島(SAPパートナー)「私は現在本社に在籍していますが、過去には関西支社にもいた経験があり、複数拠点の業務を把握しています。そのため、教育担当として適任と思われて声がかかったのかなと思います」

實(SAPパートナー)「私は電力と産業電線・機器両方の営業実務について理解している唯一の営業アシスタントということで、引き受けることになりました。話がきた当初は、『えっ私が?』と思いましたね(笑)」

寄兼(SAPパートナー取りまとめ)「私は営業の企画部門に所属しており、要件定義のフェーズから業務系メンバーとしてプロジェクトに参画しました。その後SAPパートナーの体制を組むことになり、プロジェクトのリーダー層とSAPパートナーのつなぎ役を担うことになりました」

OneFIT Phase3 基幹業務改革プロジェクトのメンバー。左から、寄兼、秋山、清野、早佐、江川、長島、實

—今回のプロジェクトの主旨は、古くてなおかつ事業部ごとにバラバラだった販売システムを、全社で統一して刷新すること。みなさんは、旧システムについてどのような課題感をもっていましたか?

寄兼「旧システムは、黒い画面に緑の文字が表示される、いかにも昭和の雰囲気が漂うシステムでした。私が入社した当時から使用していたものなので、さすがにこの先も使い続けるのは難しいだろうな……と思っていましたね」

秋山「最初に旧システムの画面を見たときは衝撃でしたね(笑)。問題なく操作はできましたが、例えば今後このシステムにAIを組み込ませたいと思ったときに対応できるのかなど、将来的な課題を感じていました」

早佐「私は、新システムへの刷新を待ち望んでいました。というのも、旧システムには製品を一意に特定するコードがなかったため、詳細情報を手入力しなければならなかったんです。販社として電工の複数事業部門の商品を扱っていることから入力時に迷うことが多く、新入社員の教育時にも説明に苦労していました」

清野「事業部門や操作する担当者ごとにシステムがカスタマイズされていたので、業務の細かい部分は完全にブラックボックス化していましたね。だから、担当者が辞めてしまうとほかの人では対応できない事態に……。これではまずいという危機感は誰もが持っていたと思います」

膨大な作業と、周囲の意識の変革。一筋縄ではいかないミッション

—清野さんと秋山さんは、事業部門WGで尽力されたとのこと。具体的にはどのようなことを行ったのですか?

清野「私たちがまず取り組んだのは、『商品コードの設定』と、『業務フローパターンの可視化』です。商品コードの設定では、先ほど早佐さんからもあった通り、これまで手打ちでシステムに登録していたものを、当社が製造する商品一つひとつに特定のコードを付与して自動処理できるようにする、という狙いがありました。

同じ素材の製品でも、長さや重さ、形状などの違いごとにコードを設定する必要があるので、その数は数万件に上ります。私がリーダーを務める銅条・高機能材事業部門は全事業部門の中で2番目に商品コード数が多い部門で、1万件弱の商品コードを地道に設定していきました」

秋山「『業務フローパターンの可視化』では、各部門や製品で考え得るさまざまな業務フローを洗い出し、それをSAP導入時にどのように対応させるかといった、オペレーション面での改善・管理を行いました。『ビジネスモデルシート』と呼ばれるフォーマットを使用して整理しましたが、作成当時はこのシートがシステムのどこに反映されるのかがまだわからない状況で、手探りで進めている感覚が強かったですね」

清野「秋山さんが言うように、新システムの仕様がわからない状態でいろいろなことを進めなければならない、というのが難点でしたね。ある程度の段階でシステムの枠が固まり、そこから正式稼働までの間に長期のテスト期間が設けられたのですが、そこで実際に操作して初めて、『あぁ、あの時やった作業はここに活きているのか!』と理解できました。

そのテスト期間は大きな転機となりましたね。こんなふうにシステムが動くのならば、これが足りないよね、というように課題を見つけて改善していく作業を何度も何度も繰り返して。ゴールが見えたことで、スムーズに業務が進むようになったと思います」

—まったく新しいシステムを構築するのは長い道のりだったかと思います。プロジェクトを通して、もっとも苦労されたのは、どんなことでしたか?

秋山「プロジェクトに関わっている人とそうでない人の温度差をいかになくすか、ですね。やはり直接関わっていないとシステム刷新への危機感を抱きづらいですし、新しいことを覚えるのには時間と労力がかかるのでモチベーションも湧きづらいです。どうやって多くの社員から理解や協力を得るか、そのコミュニケーションが重要だったと思います。先ほど清野さんがお話ししたテスト期間はそうした意味でも大きな転機で、新システム移行後のイメージが明確になってからは多くの人のプロジェクトに対する意識が変わったように思います。

関連会社などとの調整作業に関わるマネジメント層へも、旧システムの課題を打ち出してデメリットを訴えるなどした結果、主体的に取り組んでいただけるようになりました」

タイムリミットが迫るなか、試行錯誤を繰り返してシステムを構築

—SAPパートナーになられたみなさんは、同じ立場のスタッフの方々へシステムの使い方などを伝授する重要な役割だったとうかがいました。

長島「私たちもスタッフのみなさんに伝える前に、まず今までの受注フローを見直し、一つひとつの工程を新システムに対応させていくことからスタートしました。新システムへの切り替えは大きな変化だったので、スタッフのみなさんも戸惑っていましたが、『新システムはこういうもの!』と割り切ってもらいつつ、試行錯誤しながら進めていきました。入力した情報がシステム上で問題なく製造部門に流れるようテストを重ね、確立した登録方法をみなさんに共有していく、の繰り返しでしたね」

江川「新システムでは少しでも入力が楽になればと思い、これまで手打ちだった受注情報を自動入力できる仕組みをつくるなど、さまざまな工夫を盛り込みました。新システムに変わることをポジティブに捉えてもらえるよう、なるべくモチベーションが上がるような働きかけをしたいと思ったんです」

早佐「私の所属する古河エレコムは、1か月に数万件の手配入力をしています。しかも、その大半は当日出荷のため、締め切り時刻までに入力業務を終えなければならないんです。営業アシスタントには、このような日々の業務をこなしながら新システムを十分に理解し、慣れてもらう必要があり、一体どうやって進めていったらいいか……、というジレンマを抱えていました。

そんなとき、当社の社長が全国の部店長に向けて、『このプロジェクトは、古河エレコムとしてもしっかりとやり遂げなければいけない重要なミッションだ』と発言してくださったんです。秋山さんがお話ししていたように、なかなかプロジェクトの意義が理解されず苦戦していたなかで、この言葉は部店長の意識を後押しするものだったと思います。社内全体で、新システム操作のトレーニング時間を確保しなければいけないという気運が高まりました」

「プロジェクトは期限が決まっていたので、そこまでになんとかシステムを確立させる必要がありました。私たちが想定したことができていなくても次に進まなければならないなど、さまざまな壁が立ちはだかることも……。そんなときに『取捨選択が大事』とアドバイスしてもらったことが心に残っています。この言葉で割り切ることの大切さを覚えました。みんなで励まし合いながら、気持ちを切り替えて突き進んだこともたくさんありましたね」

寄兼「SAPパートナーのみなさん、タイトなスケジュールの中でまだ骨組みしかないSAPに自部門の実務を乗せるという肉付けは大変な作業だったと思います。みなさんの不安と焦りを少しでも小さくしながらこのタスクをこなしていくにはどういうやり方がいいか、リーダー層とSAPパートナーの意見を聞きながら、ときには激論もしながら(笑)、プロジェクトの仲間と一緒に考え実行して、何とかやり遂げることができました」

「人」に救われ、「人」が財産になったプロジェクト

—プロジェクトを振り返ってみて、参画したからこそ得られたことや、いま感じている課題など、自由にお話しください。

清野「新システムは個別最適ではなく全体最適を目指したものですので、ある場面では以前より使いづらく感じてしまうこともあるかもしれません。でも、長期的な視点で見たら確実にプラスになると思いますし、新事業の立ち上げや人材の流動などもスムーズになると期待しています。今後は、製造の要となる工場側のシステム刷新が待っているので、SAPシステムとどれだけうまく連携できるかが重要と考えています」

秋山「一生かけても関われるかわからないような大きなプロジェクトでしたから、大変ではありましたが、いい経験でしたね。このような大規模プロジェクトの“勘どころ”がわかったことは、今後さまざまなプロジェクトに取り組むうえで、役立つと思います。

また、プロジェクトを成功させるには、どんな素晴らしいタイムラインを描くかよりも、周りの人にどう動いてもらうか、そのためにどう働きかけるかが重要です。みなさんには感謝していますし、その言葉をできるだけ伝えるようにしていました」

江川「私が所属する部署は平塚に事業所があるので、普段、本社のみなさんと顔を合わせる機会はなかなかありません。このプロジェクトに参加したことで、事業部門を超えたつながりができて、困ったときの相談相手が得られたことが何よりうれしいですね」

長島「北海道から九州まで全国の支社や販売会社へ出張してシステム操作のサポートをしたことでつながりが広がりましたね。営業や製造部門など、さまざまな事業部門とその役割を俯瞰できるようになりましたし、この経験は大きな財産になったと思います」

「SAPパートナーは私たちを含め14名おり、それぞれが担当する事業部門で苦労しながら奮闘し、やり遂げました。一緒に苦労を乗り越えたSAPパートナー同士、仲間になれた気がしています。今はSAPパートナーのポジションはなくなりましたが、システムにくわしい立場としていろいろな質問を受けていて。そうして集まった課題や疑問を全社に還元し続けたいです」

寄兼「今は2週に1回のペースで、システムの操作マニュアルの更新版を全社へ配信しているんです。システム移行後も少しずつ調整や改善を重ねているので、なるべく困ることなく使ってもらえるよう、できることを続けていきたいと思っています」

早佐「移行期間中、旧販売システムへの未練を断ち切るべく、『過去のシステムは忘れて、これからの新システムを好きになろうよ』という話をしたことがあるんです。そしたらみんな笑ってくれて、雰囲気が柔らかくなりました。実はこれから、古河エレコムでも新たにシステム刷新の計画があります。そこでもほぐれるような言葉を投げかけながら、気を張り過ぎずに進めていけたらと思っています」

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