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ニュースリリース

スパコン向けレーザで世界最高レベルの高信頼性・省電力を達成

2012年3月30日

当社は、スーパーコンピュータ(以下スパコン)やデータセンター向けに10Gbps(毎秒10 ギガビット;ギガは10 億)で動作する面発光レーザ(VCSEL)で世界最高レベルの高信頼性を達成しました(注1)。また、今回開発したVCSELは世界最高レベルの低消費電力動作も実現しています。高信頼性とともに、温室効果ガス削減にも寄与する低消費電力レーザはスパコン、データセンター内での光インターコネクション(注2)の導入加速にもつながると予想されます。長距離通信分野で培った技術を応用し、コンピュータの分野でも「エレクトロニクス(電子)からフォトニクス(光子)へのイノベーション」に貢献していきます。

なお、高速・低消費電力動作に関してはIBM 東京基礎研究所での評価も実施しており、様々な国際会議において報告しています。

背景

10Gbps 以上の高速で動作可能なVCSEL は、動作電流が端面発光型の従来の半導体レーザに比べ1/5~1/10と低いものの、高速性を確保するため単位面積当たりの電流(電流密度)が高くなり、信頼性確保が困難であり、充分な個数や時間に基づく信頼性の検討がなされていませんでした。

内容

今回、当社は初めて10Gbps 動作可能な数千個レベルのVCSEL 素子について信頼性試験を行なって信頼度を算出しました。その結果、30Fit(注3)という高速(10Gbps 以上)のVCSELでは最も高い信頼性が実証されました。信頼性試験結果は継続して実施しており、更なる高信頼性が期待できます。10Fits が高性能コンピュータで要求される一つの指標と考えられており、ほぼこの要求を達成しました。

スパコンの性能予測では、10 倍/4 年(或いは1000 倍/10 年)のペースで高性能化が進められおり、2020年に現在世界最速のスパコン“京”の100 倍の1000ペタフロップス(注4)が達成されると予測されています。その際には、10Gbps の伝送可能な素子が100 万~500 万個必要と試算されており、更なる高信頼性と低消費電力動作が必須となっています。

また、当社はこの製造技術をベースに次世代用として期待されている25Gbps で動作するVCSEL の開発にも着手しました。なお、この研究開発の一部はNEDO の「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究/グリーン光リンク技術のための低消費電力面発光レーザアレイの研究開発」として実施されています。

本内容は4 月9-13 日に米国サンフランシスコで開催されるMRS(Material Research Society)Spring Meeting で招待講演として発表します。

(注1)本開発においては発光層にInGaAs歪量子井戸という信頼性確保に優位である材料を用いたことと、劣化メカニズムを当社が保有する半導体材料の知見、材料評価技術、ナノオーダー領域での材料分析技術を駆使し、詳細に検討を重ね高信頼性を実現しました。また、材料特性によるレーザの効率の高い動作により、低消費電力や高速動作を同時に達成しました。

(注2)従来は、コンピュータのラック間やコンピュータ内のボード間接続は電気接続で行なわれていましたが、スパコンの高性能化と共に伝送レートが増大し、電気での接続では限界が見え始めています。これに対して、前記接続を光で行なう光インターコネクションが,伝送速度増大や低消費電力要求から注目されています。スパコンでは演算速度の性能指数で評価されるTop500 と、消費電力で評 価されるGreen top500 に分類されます。“京”は性能指数でTop1 にランキングされていますが、Green では32位となっています。Green で上位を占めるスパコンはいずれも、光インターコネクションを相当数採用したシステムです。

(注3)Fit(Failures in Time)とはデバイスの信頼性の尺度を表すものです。1Fitとは1 時間当たり10 億個に1 個の故障、あるいは1 万時間(約1 年間)で10 万個に1 個が故障ということになり、極めて小さな故障率を意味します。今回の試験結果は、100万個を用いるシステムにおいて、1000 時間使用で3 個の故障しかないことを示しています。実際のシステムでは冗長性を考慮した設計になっているため、更に高い信頼性となっています。

(注4)ペタフロップスとはコンピュータの処理速度をあらわす単位の一つで、1秒間に1000兆回の演算(実数計算)を実行できることを意味します。


補足:VCSEL について

VCSEL は東京工業大学の伊賀健一学長が発明した国内発の半導体レーザであり、次の大きな特徴があり様々な領域で使用され始めています。

  1. レーザ共振器が縦方向に形成されるため従来の半導体レーザと異なり、レーザ結晶をへき開する作業が不要であるため、LED(発光ダイオード)と同様にウエハでの検査が可能であり、一次元や二次元のレーザアレイ用途が可能です。
  2. 発光層体積が従来のレーザに対して1/10程度であるため、レーザ発振のための電流(しきい値電流)が小さくなり、低消費電力が可能であり、一次元や二次元のレーザアレー用途へ好適です。また、大容量伝送も可能です。
  3. 発光ビームが円形であるため、光ファイバへの高結合が可能です。現在は、トランシーバ、コンピュータマウス、レーザプリンター等で使用されています。

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