歪みに強く、熱処理後のコイル巻きが可能な超伝導ケーブルの製品化に成功
〜強磁場コラボラトリー計画で建設する超伝導マグネット用として納入〜

2014年6月12日

当社は、東北大学(宮城県仙台市)と共同で、Nb3Sn生成の熱処理後にコイル巻き(リアクト・アンド・ワインド法)を可能としたニオブロッド法銅ニオブ(以下、CuNb)強化ニオブ3スズ(以下、Nb3Sn)超伝導ケーブルを世界で初めて開発しました。

この超伝導ケーブルは、文部科学省プロジェクトの強磁場コラボラトリー計画(注1)に基づき、東北大学が建設を進めている無冷媒25T(テスラ)超伝導マグネット(注2)の主要部品として使用されます。

背景

現在、強磁場を発生する超伝導マグネット用途として、高い臨界磁場を有するNb3Sn超伝導ケーブルが使用されています。このNb3Sn超伝導ケーブルは、非常に脆く、1%程度の歪みを加えるとNb3Snが壊れて電流が流れにくくなります。

この性能低下を防止するため、通常は、超伝導マグネット用にコイル巻きした後、Nb3Sn生成のために大型炉で熱処理(600〜700℃で数十時間〜数百時間)を行い、生成したNb3Snに歪みを加えないようにしています。この製法では、マグネット全体を均一に熱処理するために、大きな熱処理炉が必要であり、巻枠等の部材に耐熱性が求められる等、製造工程に多くの制約条件がありました。

開発した技術

このたび当社は、東北大学と共同で、歪みに強く、Nb3Sn生成の熱処理後にコイル巻きが可能であるCuNb強化Nb3Sn超伝導ケーブルの開発に世界で初めて成功し、本年3月、量産製造した総長7.8kmのケーブルを株式会社東芝殿へ納入しました。新たに開発した超伝導ケーブルは、マグネットでの熱処理が不要になることにより、超伝導マグネットの製造工程を簡略化し、コストダウンが可能となります。

今後「強磁場コラボラトリー計画」における、より高磁場の発生を目指す30Tマグネットや50Tハイブリッドマグネットなどへの採用が期待されるとともに、既存の民生NMR(注3)に適用して従来法のNb3Sn線を代替するなどの大きな可能性を有しています。

本年2月の記録的な大雪により、当社日光事業所にて、一部工場建屋の屋根崩落等の被害がありました。CuNb強化Nb3Sn超伝導ケーブルの製造設備も被災しましたが、一部工程の委託加工等による製品製造を継続しており、完全復旧に向けて全力で取り組んでおります。今後も当社は、優れた性能を有する超伝導技術を開発し、最先端技術の進展に貢献して参ります。

特長

  • 素線は、Nb3Sn生成熱処理後に±0.8%の曲げ戻し歪みを加えても通電電流が低下しません。
  • 素線およびケーブルは、Nb3Sn生成熱処理後に繰り返し曲げ戻し歪み(±0.5%)を印加することにより、強磁場中の通電電流が最大1.5倍に増大します(事前曲げ歪み効果)。

用語解説

(注1)強磁場コラボラトリー計画:
文科省の「学術研究の大型プロジェクト」の1テーマで、国内の強磁場施設の研究拠点を構築して強磁場施設を増強する計画。強磁場における新たな物質相の発見など物質科学、材料科学や生命科学の進展が期待される。建設費144億円で建設期間平成27-31年を予定している。

(注2)無冷媒25T超伝導マグネット:
金属超伝導導体(NbTi導体、Nb3Sn導体)と高温超伝導導体(Gd系テープ線)を使用す る強磁場マグネット。液体He を使用しない冷凍機冷却が特徴で、長時間・高安定強磁場を提供する。

(注3)NMR:
核磁気共鳴分光装置。5T級は低分子材料、10T級はタンパク質、20T超級で無機物質の3次元化学構造解析が可能。分子量の大きなタンパク質の構造解析や薬剤化合物の迅速な分析手段として、分析化学の分野で広く普及しており、遺伝子解析や新薬創出に貢献している。磁場発生のために超伝導マグネット等を用いる。