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次々と新たな扉を開く加納の原動力は、人と技術に対する好奇心である。

コア技術融合研究所フェロー

加納 義久

粘着技術との出会い

粘着とは糊が固まらない状態を維持して接着する技術で、後で剥がすことを念頭に置いています。わかりやすい例として、付箋紙を思い浮かべてみてください。

しかし私が大学生の当時、粘着のメカニズムの多くは未知の領域でした。

  • なぜくっつくのか。なぜ剥がれるのか。
  • 粘着強度をコントロールするファクターは何か。
  • きれいに剥がすにはどうしたらいいか。・・・等々

私が大学3年生のころ、秋山三郎先生(注1)の紹介で、‘粘着’に関する講演会に参加したときのことです。そこでは、粘着現象について産・学・官の研究者らが、真剣に議論を戦わせていました。その圧倒的な熱量に刺激を受け、秋山先生の研究室に配属することを決めました。

(注1) 現東京農工大学名誉教授

基礎研究の魅力

研究室では実験データを徹底的にとり(時には徹夜)、学会での発表も経験しました。当時、学部生に学会発表させる先生は少なかったと思います。実験をしていると先生が、「この研究は世界で君しかやっていないんだよ」とつぶやいて通り過ぎていきます。とにかく実験していて楽しかったという記憶が多いのは、秋山先生のおかげですね。この経験があって、就職先は、粘着剤メーカを選びました。

企業でもこつこつと実験データを採取し、粘着メカニズムを解明する作業を通して基礎研究の面白さに魅了されていきます。しかし所属する企業で基礎研究の継続が徐々に難しくなり、どうしても基礎研究を続けたい私は大学の研究室に戻りました。企業在籍時と同じ給料とはいかず、貯金を取り崩しながらの生活でしたが、好きな研究に明け暮れる生活に不満はありませんでした。

33歳の頃、ポリマーブレンドにより粘着特性を制御できるメカニズムを突き止め、日本接着学会の進歩賞を受賞しました。これは私の研究人生で大きなエポックです。

その後古河電工に専門性の高さを認められ、30代後半に同社に入社。研究開発と事業創出に取り組んでいます。

プロフェッショナル

これまで判断力や決断力、粘り、厳しさや優しさといった総合的な人間力を多くの先輩に学ぶ機会を得ました。その中のひとりが現在古河電工・次世代インフラ創生センター長の島田道宏氏です。彼の特徴はメモ魔といえるほどの記録力と、それを正確に把握している記憶力です。過去の議論も整理された引き出しから取り出すように正確に再現できるのです。そのマネジメント力を吸収したくてトライしましたが、なかなか同じようにはいかないですね。

こういう師匠とたくさん出会えたことは幸せでした。

仕事の知人を友人に!

普段から社内でも社外でもコミュニケーションを重要視しています。

職場で仕事の話をするだけでなく、職場以外で仕事以外の話をすることが関係性を深めてくれますね。 例えば学会や講演会では初対面の方と積極的に対話します。可能なら仕事を終えた後、酒を酌み交わしながら交流します。自分がこの上なく懇親会が好きというのもありますが、お酒は儀礼的な壁を取り去ってくれます。仕事上のつきあいがあってもなくても長い付き合いができるところが魅力です。

業務上の課題を解決するときは、自分の専門外のことであっても、学会や大学の友人に相談して解決策を導くことも多々あります。社外のネットワークは私の大きな財産になっています。

次世代育成

大学にスピンアウトするときは、教育職に就く心持ちでした。現在のフェローとしても若手育成は大きなミッションであり、やりがいと喜びを感じます。一緒に懇親するのも楽しいですね。

若手には積極的に社外にアプローチして欲しいとい思っています。学会発表には積極的に参加してもらいますが、一番鍛えられるのは他流試合です。社外の人と議論することで新しい発見や目から鱗の着想を得たりします。

そのためのアプローチとして社内の若手にはメンターマップの作成を推奨しています。メンターマップとは自分の成長に関与した人(親友、上司、先生、恩師など)をマッピングする作業です。これまでの出会いを整理すると同時に、自分の目指す人物像と今後どんな出会いを求めていけばよいかを考えるきっかけになると思います。

現在取り組んでいる事業化案件は最後の仕事かもしれないと思いつつ、一緒に研究開発している若手が、高いモチベーションを持って仕事することを大いに期待しています。

古河電工プロフェッショナル制度

古河電工プロフェッショナル制度区分
区分 主席研究員 主幹研究員 フェロー シニア・フェロー
処遇水準 課長 部長 主幹参与 執行役員
専門性要件 高度で体系的な専門知識および技術を有し、課題に対して創造的な解決策を策定できる 幅広い社外ネットワークを活用して、理論的な解明が不十分な課題に対してリーダー的役割を担える 他の追随を許さない、国際的に通用する専門性を有し、学会および業界における中心的な役割を担っている。
実績要件 社内外の評価が高く、特許、論文の引用回数などが抜きん出ている 創造的で斬新な発想・構想を具体化し、当社の優位性確立に貢献している。 斬新なビジョンや中長期の方向性を提案し、経営上の意思決定に参画している。


プロフィール

1985年

大学の専攻を活かせる粘着剤メーカに就職

1994年

基礎研究に没頭できる大学の研究員にスピンアウト

1998年

古河電工に誘われ入社、以後20年以上にわたり研究開発と後輩の教育に従事。ナノテクセンター長、解析技術センター長など要職を歴任。

人とのコミュニケーションを大切にし、特に飲ミュニケーションが大得意。そこで構築したネットワークが仕事でもプライベートでも多いに役立っている。

コア技術融合研究所フェロー
加納 義久