デリケートな細胞を、ダメージなしで回収・利用するために

メディカル

「良質な単一生細胞」をコンセプトとしたユニークなバイオデバイス

PERFLOW® Sort

古河電気工業は、長年にわたって光通信分野で蓄積してきた高感度計測技術やメカトロ技術などを武器に、ライフサイエンスという新たな事業領域に進出。あらゆる生命活動に最も深く関わる細胞、中でも「良質な単一生細胞」にフォーカスしたまったく新しいバイオデバイスとして、ダメージレス・セルソータ「PERFLOW® Sort」と、マイクロチップ上の単一細胞を解析・回収する「シングルセルピッキングシステム」を商品化した。

生細胞、特に分化・誘導が必要とされるiPS細胞、ES細胞および幹細胞を扱う分野では、良質な生細胞、特にコロニー形成(注1)のために「良質な単一生細胞」を用いることが極めて重要だ。しかし、超音波、高電荷および高い水圧を用いる従来のセルソータでは、ヒトiPS・ES細胞や神経細胞などのようなデリケートな細胞種をソーティング(注2)するとき、大きな物理的ダメージ(ストレス)を細胞に与えてしまう。これにより、ほとんどの生細胞がコロニーを形成することなく、死滅してしまうという大きな問題があった。

デリケートな細胞を、ダメージなしで回収・利用するために

コロニー形成(注4)

「PERFLOW® Sort」は、超音波や高電荷を使用しない。従来の1/10以下の水圧で送液し、生細胞を含む液滴の高速落下を行わないことで生細胞の着水衝撃を回避。細胞の分離工程における主な物理的ダメージ要因を極限まで低減した。最もデリケートな成熟巨核球細胞(注3)やヒトiPS細胞などをソーティングしても、極めて高い生存率とコロニー形成成功率を得ることができる。さらに独自の透過光情報による解析方法は、細胞サイズの解析精度を向上させただけではなく、抗原・抗体反応による蛍光シグナルに頼らず、細胞そのものの性質を特定できる可能性を秘めている。

抗体医薬、創薬スクリーニングの成功率を劇的に高めるために

シングルセル
ピッキングシステム

「シングルセルピッキングシステム」は、8万~33万以上のマイクロウェルを構成するマイクロチップ上で、単一細胞を極めて高感度かつタイムラプス(注5)で計測しながら、目的の単一細胞をダメージレスで培養プレートに回収できる世界初の装置だ。従来の細胞塊を計測・回収する商品に比べ、計測感度を数十万倍に向上し、数マイクロメートルの単一細胞でも、90%前後という極めて高い回収率の実現に成功。「万に三つ」と言われる創薬スクリーニングの成功率を劇的に高めることや、抗体医薬などの開発ツールとして期待されている。

2004年に立てた構想に基づき、現事業の形成を実施した、古河電気工業の生産技術本部生産技術部バイオデバイス事業チーム長、徐は次のように語った。
「多くの商品は、性能価格比の高さを競い、お客様の満足度を直接図ろうとしています。しかし、生細胞を対象としたバイオデバイス開発には、たとえお客様の利便性を一時的に犠牲にしても、生細胞の身になったつもりで開発コンセプトを取り決める覚悟が求められます。なぜなら、細胞も『複雑な感情』を持つ生き物であり、ダメージを受けると細胞死の一種であるアポトーシス(注6)を自ら引き起こしてしまうからです。生細胞を正しく増殖・分化させるためには、生細胞こそが第一の『お客様』であることを常に自覚していかなければなりません。これからも高い使命感を持って、生命科学と工学技術を融合させるための新しいグローバル事業を創出し、一層のオープンイノベーション強化に挑戦してまいります」

(注1)細胞生物学において、細菌や培養細胞などが単一細胞由来の細胞塊を構成すること。

(注2)分類して取得すること。分取すること。

(注3)成熟した造血系細胞のこと。骨髄の中に存在して、血小板を生み出します。

(注4)ソーティングされた単一ヒトiPS細胞によって形成されたコロニー(画像は、国立がん研究センター研究所 石川哲也博士 ご提供)。

(注5)時間経過により変化する様子を計測・観察すること。

(注6)多細胞生物の細胞が、個体をより良い状態に保つため、能動的に不要・有害な細胞を死に誘導し、排除する仕組みのこと。