ITER(国際熱核融合実験炉)向け超電導ケーブルを受注
〜夢の恒久的エネルギー源の実現に貢献〜

2014年10月24日

当社は、現在フランスで建設が進められているITER(国際熱核融合実験炉)で使用される超電導ケーブル約30トンを日本原子力研究開発機構から受注しました。

これまでに受注したITER用超電導ケーブルと合わせて、受注総額は約25億円になります。これらの超電導ケーブルは、2015年2月から2016年10月にかけて納入する計画です。

背景

ITER は、核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証することを目的として、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの七極により進められている超大型国際プロジェクトです。

ITERで核融合反応を実現するには、1億度(℃)以上の高温プラズマを強力な磁場で閉じ込めると共に、強い磁場の変化を用いてそのプラズマに大電流を発生させる必要があります。変動磁場を発生させるセンター・ソレノイド(CS)7基(1基は予備)に用いられるNb3Sn(注1)超電導導体の製作は日本が担当しており、当社はこのうち今回の受注分と合わせて2基分の超電導ケーブルを製造します。

概要

当社は、本年2月に発生した記録的な大雪により日光事業所の超電導工場の一部が被災しましたが、鋭意復旧を進め、ITER用超電導ケーブルの製造が可能となりました。日光伸銅工場では、超電導の安定化材に必要な残留抵抗比(RRR)(注2)>350を満足するクラス1相当の無酸素銅(注3)を生産、超電導材料と複合して超電導素線までを一貫生産しています。加えて全工程は水力発電によるクリーンな電力でまかなわれており、CO2発生量は同規模他社工場の50%以下を実現しています。

こうして製造された超電導素線は、古河電工グループの古河電工産業電線株式会社(本社;東京都荒川区 社長;服部 吉孝)と株式会社ビスキャス(本社;東京都品川区 社長;佐久間 進)で撚線されます。雪害の影響の残る中、素材から撚線までの複雑で長い工程を経る製造ですが、グループの総合力を発揮することで受注に至りました。

また当社は、低温(金属系)と高温(酸化物系)の超電導材料を工業化し、幅広い製品のご提供が可能です。ITERをはじめとする大型プロジェクトやMRIやNMRなどの商用アプリケーションでは、まだまだ低温超電導が大きなウエイトを占めます。一方、高磁場が必要とされる分野などでは低温と高温の両方が求められおり、当社は、低温と高温をハイブリッド化したソリューションの提供が可能な唯一の超電導線メーカーです。

製品の特長・データスペック

  • 銅・スズ合金を基材として製造されるNb3Sn 超電導素線としては、12Tの高磁場、4.2Kの極低温中で世界最高の臨界電流密度(注4)1.2kA/mm2を有しています。
  • 超電導ケーブルは、直径0.83mmの超電導素線576本と同寸法の銅線288本が撚り合されて、約34mmの外径に仕上がります。通電性能を評価する共通試験において、世界最高の分流開始温度(注5)7.4K(45.1kA、10.85T)を達成しました。
超電導素線,超電導ケーブル

用語解説

(注1) Nb3Sn:
金属系の超電導材料では、NbTi(ニオブチタン)合金系とNb3Sn(ニオブ・3・スズ)金属間化合物が実用化されている。液体ヘリウム温度(4.2K)で、10T(テスラ)を超える磁場を発生させるためには、超電導性が消失してしまう臨界磁界(Hc2)の高いNb3Sn(Hc2=24T)が必要。13Tの磁場中で運転されるITER-CSにはNb3Sn超電導材料が用いられる。

(注2) 残留抵抗比(RRR):
室温での抵抗÷極低温(4.2K)での残留抵抗で求められる材料の特性。超電導の安定化材には高いRRR(低い残留抵抗)が求められる。

(注3) クラス1 相当の無酸素銅:
送受信用真空管やマイクロ波管などの電子管に使用される無酸素銅。特に、高電界が印可され、超高真空中で使用されるものは、酸素含有量10ppm以下で結晶粒の大きさも厳格に規定される無酸素銅が必要。

(注4) 臨界電流密度(Jc):
一定の温度と磁場の下で、超電導性を消失させないで流せる限界の電流密度(最大電流密度)。 Nb3Sn 線の場合は、安定化銅を除く部分の単位面積当たりの電流値として規定される。

(注5) 分流開始温度(Tcs):
一定の磁場の下、定格電流を流せる限界の温度(最高温度)。超電導導体には、外部からの熱流入や導体自体の発熱があるため、安定的運転のために設計温度に対して十分なTcs マージンが必要。