レアアース系超電導線材を用いた永久電流技術の開発
~高温超電導線材を用いたMRIマグネットの実現に向けて前進~

2016年4月27日

古河電気工業株式会社
東北大学金属材料研究所

古河電気工業株式会社(社長;柴田 光義、以下 古河電工)と東北大学金属材料研究所(渡辺 和雄教授、以下 東北大学)は、レアアース系超電導線材同士の接続で10-12Ω(10のマイナス12乗オーム)台の超電導接続技術と高温超電導永久電流スイッチの開発に成功しました。本研究開発は、高温超電導線材を応用した医療機器の実現を念頭に、経済産業省「高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクト」及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業高安定磁場コイルシステム基盤技術の研究開発」の支援によって行われました。

開発成果概要

  • レアアース系高温超電導線材(注1)の接続で10-12Ω台の接続に成功し、これまで不可能であった高温超電導線材の超電導接続を実現することができました。
  • レアアース系高温超電導線材を用いた超電導コイルと永久電流スイッチ(注2)を、超電導接続して、20Kにて100Aの永久電流運転(注3)に成功し、3500ガウスの磁場を10時間保持して永久電流運転を確認しました。

研究開発の内容

現在の超電導MRI装置(注4)は、金属系超電導線で作られた超電導コイルを液体ヘリウムで極低温(マイナス269℃)に冷やして用いられています。この金属系超電導コイルは、複数の超電導コイルと永久電流スイッチを超電導接続でつないで閉回路とすることで、外部からの電流供給なしに長時間(1年以上)一定磁場を保つ永久電流運転がおこなわれています。永久電流運転は、少ない運転電力で高い磁場を安定して得られることから、医療現場におけるMRIの普及を促進しました。

高温超電導線は液体窒素温度(マイナス196℃)で超電導を実現できることより、希少資源のヘリウムを使わないMRI装置として期待され、AMEDのプロジェクトでレアアース系高温超電導線材を用いたMRIコイルの開発が進められてきました。レアアース系超電導線材は超電導接続ができないために永久電流運転ができず、常に電源から電流を流し続ける必要があり、きれいな画像が取るために特別に安定度の高い電源の開発も必要でした。

古河電工では、古河電工の米国の子会社であるスーパーパワー社のレアアース系高温超電導線材を用いた試験用超電導コイルと永久電流スイッチを製作して、それぞれを超電導接続して超電導コイル装置を製作しました。東北大学で、この超電導コイル装置を小型冷凍機により20K(マイナス250℃)に冷却して、永久電流スイッチを開の状態で電源より100Aの電流を流して3500ガウスの磁場を発生させたのちに、永久電流スイッチを閉として外部電源から切り離した状態で、100Aの電流が24時間以上流れていることを確認しました。磁場減衰が安定した状況で10時間の磁場減衰の測定結果より、接続抵抗として10-12Ω台の超電導接続を確認しました。

今後の予定

古河電工では本技術開発の成果をベースに、超電導接続の臨界電流の向上による低抵抗化など、引き続き永久電流技術の開発に取り組んでまいります。

永久電流技術の開発は、MRI装置以外にも核磁気共鳴装置(NMR)や、超電導浮上装置など、高温超電導線材を応用した機器の実現に向けて貢献するものと期待しております。

図 永久電流スイッチを用いた高温超電導コイルの磁場と時間減衰

用語解説

(注 1)レアアース系高温超電導線材
テープ状金属基板上に中間層を成膜し、希土類系元素(イットリウムやガドリニウムなど)、バリウム、銅等からなる酸化物超電導層を結晶配向させながら成膜した超電導線材です。液体窒素温度(マイナス196℃)において超電導状態となり、電流密度が高く、磁場中でも特性低下が少なく、実用化された高温超電導線材の中で最も性能の高い材料です。

(注 2)永久電流スイッチ
永久電流スイッチは、超電導巻線の温度をヒーターで上下させて超電導状態と常電導状態を切り替えることで、抵抗値の差を利用してスイッチの開閉を行うものです。

(注 3)永久電流運転
電気抵抗ゼロの超電導線で製作した超電導コイルの両端を、永久電流スイッチで閉じて閉回路とすると、その電流は減衰することなく流れ続けます。これを永久電流と呼び、通常のMRIコイルは永久電流運転がおこなわれます。これまでは、高温超電導線材の超電導接続ができないために、高温超電導コイルは永久電流による運転ができず、常に電源から電流を流し続ける必要がありました。

(注 4)超電導MRI装置(磁気共鳴断層撮影装置)
強い磁場と電磁波を利用して人体の断層像を得ることができる装置で、病理診断として今や必要不可欠な医療機器です。現在稼働しているMRI装置は、磁場を発生する超電導コイルにNbTi線などの金属系超電導線材が用いられ、液体ヘリウム温度(マイナス269℃)に冷却されています。古河電工では、MRIコイル用の金属系超電導線材を永年にわたって製造し、幅広い供給実績を持っています。

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