異常X線小角散乱法を用いた高温超電導中の人工ピン解析法を確立
〜極めて小さい数nmの人工ピンを高精度に計測することに成功〜

2019年6月24日

当社は、異常X線小角散乱法を用いた高温超電導中の人工ピン解析法を確立しました。本研究では、大型放射光施設であるSPring-8を活用し、超電導に分散された数nmの人工ピンを高精度で測定する手法を、世界で初めて確立しました。

背景

当社の子会社であるSuper Power社は、高温超電導線材の開発と製造を行い、高い磁場中でも臨界電流を低下させない線材を提供しています。高磁場用線材では磁束ピン止め機能を発現させるため、超電導線材中に数nmの人工ピンを微細に分散させています。人工ピンの特性を理解し制御するためには、高精度に人工ピンを解析することが必要となっています。

内容

大型放射光施設であるSPring-8において、異常X線小角散乱法による高精度な超電導材料中の人工ピン解析手法を確立することに成功しました。この手法は、人工ピンの大きさ・密度を高い精度で解析することができるため、新しいコンセプトの人工ピンの設計指針を得ることができます。また、製造プロセスにフィードバックを行うことにより、超電導製品の高信頼性化に貢献することができます。本研究成果は、2019年4月に英国物理学会出版局が発行するSuperconductor Science and Technology誌に掲載されました(注1)

人工ピンの電子顕微鏡写真と異常X線小角散乱法による解析結果
数nmの人工ピンを本手法で解析することにより人工ピンの直径を高精度で計測することができる

関連する研究発表

(注 1)Y. Oba, H. Sasaki, S. Yamazaki, R. Nakasaki, and M. Ohnuma, “Characterization of BaZrO3 nanocolumns in Zr-added (Gd,Y)Ba2Cu3Ox superconductor tape by anomalous small-angle X-ray scattering”, Superconductor Science and Technology 32, (2019) 055011/1-5.

用語解説

人工ピン;
高い臨界電流密度の線材を製造するためには、磁束量子の制御が必要である。超電導線材をコイルにして強力磁場発生装置として用いる場合には、線材中に強い磁場が加わる。超電導材料に磁場が印加されると磁束量子が形成されるが、電流を流すことにより磁束量子がローレンツ力で動き熱を発生させ抵抗を生じる。そのため、磁束量子を適当な常伝導相にピニングさせる必要があり、そのために人工ピンを用いる。人工ピンの大きさは数nmと非常に小さいため、電子顕微鏡以外の適切な解析手法が存在しなかった。

X線小角散乱法;
X線を用いて、試料中の数nm~数μmの小さな粒子の直径や密度を測定する手法である。電子顕微鏡で直接観察する方法と比べて、数万~数百万倍の大きな範囲から計測することができるため、高い精度で粒子の情報を得ることができる。

異常X線小角散乱法;
X線の異常散乱現象を利用する小角散乱法。本研究では、人工ピンを構成するジルコニウムの異常散乱現象を利用して、散乱強度を数倍に強調させた。原理的に、SPring-8等の放射光施設を用いる必要がある。

関連リンク