洋上風力発電を支える「浮遊式海中ケーブル」

風力発電は、燃料を必要としないクリーンなエネルギー源として知られている。だが、日本には年間を通じて安定して風が吹く適地が多くなく、注目を集めているのが、陸地よりも強く安定的に風が吹く洋上での風力発電だ。全国各地で大規模な洋上風力発電の開発プロジェクトが進行する中、ひときわ特異性を放っているのが、福島洋上風力コンソーシアム(注 1)が経済産業省から受託した「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」である。

通常の洋上風力発電では、発電設備を海底に固定する「着床式」が採用されているが、福島沖の適地は水深が深く「着床式」の開発は現実的ではない。そこで世界で初めて、風車と変電設備を海上に浮かべ、海中をケーブルで結ぶ「浮体式」が採用された。この前例がないプロジェクトに、10企業・1大学が参画。古河電気工業は、発電した電気を陸地へと送る海底ケーブルや浮遊式海中ケーブル(以下、ライザーケーブル)の開発、製造、据え付け事業を担った。

海中で波や潮流に追従し、遮水性能と耐疲労特性を向上

ライザーケーブルの開発にはつぎの点を考慮する必要があった。それは波や潮流への対策だ。風車と変電設備を結ぶライザーケーブル、変電設備と陸上から引いてきた海底ケーブルをつなぐライザーケーブルはそれぞれ、波や潮流によって繰り返し動くため、ライザーケーブルの寿命に大きな影響を与える。陸上や海底の一般的なケーブルの耐久寿命は20~30年だが、ライザーケーブルも風車と同等の20年の耐久性が求められた。

このような高度な要求に対して、古河電気工業は40年以上にわたる海底電力ケーブル開発で培ったノウハウを活用。長期の使用においても、海水がケーブル内部に浸透しない、遮水性能と耐疲労特性に優れた構造を持つライザーケーブルを開発した。

ライザーケーブルにはブイを取り付け、海中でライザーケーブルが S 字を描くように設置。適度なたゆみにより波や潮流に追随した動きを可能にして、耐久性向上を実現している。

実際のケーブル敷設作業について、古河電気工業の電力事業部門電力エンジニアリング部長兼洋上風力プロジェクトチーム長、藤井茂は次のように語った。
「福島は太平洋側ですので、台風が発生するとさえぎる物が何もなく、海がとても荒れます。ケーブル工事は1日単位で進めるものではなく、連続した数日間、海象条件のよい日が続かなければ実施できません。台風接近のため、数日間、港に退避せざるを得ないなど、日々苦労が絶えませんでした。
一方、今回のプロジェクトでは、様々な分野の企業と一緒になって、大きな結果を成し遂げるという醍醐味を味わうことができました。これからも「浮体式」洋上風力発電の普及に貢献していきたいと思っています。」

「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」では、2013年に風車を運開したが、2年以上経過した現在も、送電通信関係のトラブルは報告されておらず順調に機能している。

実証実験は現在も継続中で、「浮体式」洋上風力発電の事業化はまだ先となる見込みだ。事業化のあかつきには、たくさんの雇用と大きな経済効果を生み、福島の復興に寄与することが期待されている。古河電気工業は、引き続きプロジェクトの構成企業として尽力すると共に、国内市場のトップシェアと海外案件の獲得を目指していく方針だ。

(注1)福島洋上風力コンソーシアムメンバー;丸紅株式会社、東京大学、三菱商事株式会社、三菱重工業株式会社、ジャパン マリンユナイテッド株式会社、三井造船株式会社、新日鐵住金株式会社、株式会社日立製作所、古河電気工業株式会社、清水建設株式会社、みずほ情報総研株式会社