次世代フライホイール向け高温超電導マグネットの開発に成功
~メガソーラー等との連携により、効率的な電力エネルギーの貯蔵が可能に~
公益財団法人鉄道総合技術研究所(以下「鉄道総研」)と古河電気工業株式会社(以下「古河電工」)は、古河電工の子会社のスーパーパワー社が製造した第2世代高温超電導線材を用いた大型フライホイール用の高温超電導マグネットの開発に世界で初めて成功しました。(注1)
本開発は、クボテック株式会社、株式会社ミラプロ、山梨県企業局と共同で、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発」プロジェクトの中で実施しているものです。
開発成果概要
- イットリウムを用いた第2世代高温超電導線材(注2)で高強度な高温超電導マグネットの開発に成功しまし た。
- このマグネットを50K(マイナス223℃)まで冷却して高磁場を発生させることにより、2トンを超える荷重 を非接触で支持できることを実証しました。
- 従来の20K(マイナス253℃)まで冷却する高温超電導コイルより大幅に高い温度である50K(マイナス 223℃)の温度で運転することが可能となり、冷却コストを低減するめどが立ちました。
開発品の内容
フライホイール蓄電システムは、装置の内部にある大型の円盤(フライホイール)を、太陽光発電等の余剰電力を使って回転させることで蓄電し、曇天により発電量が減少した際に、その減少分を補填するように発電するものです。劣化のない「電池」として使えるもので、用途は幅広く、例えば鉄道システムの電力有効利用(回生失効対策)などにも役立ちます。
開発を行っている次世代フライホイール蓄電システムは、鉄道総研が考案した超電導バルク体と超電導マグネットを組み合わせた超電導磁気軸受を適用したもので、回転する円盤を非接触で浮上させ、軸受の摩擦損失をゼロとすることで運転効率の向上を図っています。また、定期的に交換が必要であった軸受の寿命を半永久とすることが可能です。
現在開発中の超電導磁気軸受は、超電導バルク体と超電導マグネットで構成され、超電導マグネットで発生する磁場に対する超電導バルク体の反磁性効果により、1組の軸受で約4トンの円盤を浮上させることを目標としています。
このような大きな重量を浮上させるためには、高強度な超電導マグネットに高磁場を発生させる必要があります。また効率の良い運用のために、冷却温度を上げる必要もあります。そこで今回、この超電導マグネットに使用するコイルに、古河電工が平成24年に買収したスーパーパワー社の第2世代高温超電導線材を用いて、中部電力株式会社殿が開発した「よろい」コイル構造(注3)の、内径120mm、外径260mm のダブル・パンケーキコイル(テープ状の超電導線を薄く切ったバウムクーヘンのように巻いた、2枚で1対の扁平なコイル)としました。
この製作したコイルを、小型冷凍機を用いた液体窒素を使わない熱伝導による冷却で、51K(マイナス222℃)に保持して、運転電流である110Aでの通電と磁場を確認し、さらに線材の性能限界の163Aの通電に成功しました。また、超電導バルク体との組み合わせ試験を実施し、2トンを超える所期の浮上力が出ていること、強度的にも問題が無いことを確認しました。これまでの第1世代高温超電導線材は、高磁場を発生させるために20K(マイナス253℃)以下まで冷やさなければなりませんでしたが、第2世代高温超電導線材では、50K(マイナス223℃)の温度で運転することが可能となり、冷却コストを低減するめどが立ちました。今後は、さらにコイルを追加して、実規模のフライホイールの浮上試験を行います。
開発体制
今回のプロジェクトは、鉄道総研が古河電工、クボテック、ミラプロ、山梨県企業局を取りまとめて開発を進めています。超電導磁気軸受については、鉄道総研と古河電工が共同で開発を行い、鉄道総研が超電導磁気軸受全体の基本設計を実施し、古河電工が高温超電導マグネットの設計・製作を実施しました。なお、この超電導磁気軸受は、これまで鉄道の蓄電技術としての応用を目指して、鉄道総研において平成24年度まで国土交通省の国庫補助金を受けて開発されたもので、本プロジェクトの中で、大型化と実用化に向けた開発を進めています。
今後の予定
本マグネットは平成24年度から26年度にかけて開発を進めている大容量超電導フライホイール蓄電装置の中に組み込み、平成27年に山梨県米倉山において新たに建設するメガソーラー(注4)との連系試 験を開始する予定です。
用語解説
(注1)超電導フライホイール蓄電システム:
フライホイールは、電気エネルギーを高速回転体の運動エネルギーに変換して貯蔵する装置で、電力の入出力を高速かつ繰返して行うことができる装置です。従来は、回転体の機械的軸受損失が大きく、かつ軸受の摩耗により長期間の運転が困難でしたが、超電導マグネットと超電導バルクを用いることで回転体を非接触で浮上させる軸受が可能となり、低損失でメンテナンスフリーの電力貯蔵装置を実現しました。
(注2)第2世代高温超電導線材:
クロム・ニッケル基合金などのテープ状金属基板上に中間層を成膜し、希土類元素(イットリウムなど)、バリウム、銅等からなる酸化物超電導材料を結晶合成させながら成膜した超電導線材です。液体窒素温度(マイナス196℃)において超電導状態となり、電流密度が高く、磁場中でも特性低下、交流損失が少なく、実用化された高温超電導線材の中で最も性能の高い材料です。
(注3)よろいコイル技術:
中部電力株式会社殿が開発した高温超電導マグネットの磁場を飛躍的に向上させる技術です。超電導線材に作用する電磁力を、超電導線材に接するコイル側板で支える方法で、液状樹脂を用いた絶縁被覆技術と組み合わせることによって、従来のイットリウム系超電導コイルの2倍、金属系超電導コイルの6 倍という、世界最高強度の電磁力に耐える超電導コイルを実現させます。
(注4)山梨県米倉山メガソーラー:
全国有数の日射量を有する山梨県では、地球温暖化対策実行計画の中核として、山梨県甲府市に東京電力殿と共同で「米倉山太陽光発電所」を建設しました。44.7haの広大な用地の中、高台に約8万枚の太陽光パネルが設置され、一般家庭約3,400軒分の電力量に相当する年間1,200万kWhを発電しています。山梨県では、超電導フライホイールとの組み合わせによる系統連系試験用に、1,000kWの太陽光発電所を建設中であり、運転開始後は、実証試験に向けた基礎データの取得を開始する予定です。